【 このページの要約 】 ・ある命題 「p → q」 ( p ならば q ) が真(正しい)のとき,その対偶 は真(正しい)であるが,逆や裏は必ずしも真(正しい)とは限らない. ・ある命題 「p → q」 ( p ならば q ) とその対偶とは真偽が一致するので,対偶の真偽を示せば元の命題の真偽が示せる. ・ 命題 p → q には,集合の包含関係 P⊂Q が対応する. これを集合の要素で表わせば,「どんな x についても,x∈ P → x∈ Q 」になる. ・ P⊂Q ⇔ ⊂ だから,p → q ⇔ → が成り立つ. |
■ p,q が命題(真偽が定まるもの)であるときの命題
「p → q」 ( p ならば q ) の考え方 (参考)現行の高校数学Aの教科書では,「命題の真理表」や「 p , q が命題であるときの p → q の真偽」については,扱われていない.
○ 命題 「p → q」 ( p ならば q ) の真偽 命題 p,q の真偽に応じて命題 p→q の真偽を次のように定める(定義).※ 命題「 p ならば q 」が成り立たないのは,「 p であってかつ q でないとき」だけである.すなわち,「 p ならば q 」⇔「 p かつ 」以外 p の否定の真偽の定義
以上を用いて, の真理表は次の表のように左から 右へ順に構成していくことができる.
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
例1 勉強がすんだらスイカ 親が子に「 p (勉強がすんだ)ならば q (スイカをあげる)」と約束した場合,実際に起こる事柄と子どもの(真偽についての)思いは次のように対応している.例2 入院したら保険金 病気やケガで入院したときにかかる費用を払ってもらえる保険がある.これを,簡単な命題にすると (※参考) なお,p または q の真偽は次の表で定義される.
|
○ 逆元の命題「 p ならば q 」( p → q )に対して,仮定と結論をつけ替えたもの:「 q ならば p 」( q → p )を元の命題の逆という.元の命題が真であっても,その逆は必ずしも真とは限らない. |
||||||||||||||||||||||||||||||
逆が真でない例
元の命題:「金は光る」 |
||||||||||||||||||||||||||||||
○ 裏元の命題「 p ならば q 」( p → q )に対して,仮定と結論を否定に替えたもの: → を,元の命題の裏という.元の命題が真であっても,その裏は必ずしも真とは限らない. |
||||||||||||||||||||||||||||||
裏が真でない例
元の命題:「雪は白い」 |
||||||||||||||||||||||||||||||
○ 対偶元の命題「 p ならば q 」( p → q )に対して,仮定と結論をつけかえ,さらに,各々を否定にしたもの:「 → 」を元の命題の対偶という.元の命題が真ならばその対偶も真になる. |
||||||||||||||||||||||||||||||
元の命題とその対偶の真理値が一致することの証明
|
◇補足:真理表を用いた証明の例◇ 1. ( p かつ q )→ p が成り立つことの証明
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||
2.(かつの否定に関する)ド・モルガンの法則 ⇔ または の証明
すべての場合に対して の真理値と または の 真理値が一致するから,これらは同値(互いに必要十分). |
【問1】 次の真理表を埋めて,(またはの否定に関する)ド・モルガンの法則 ⇔ かつ を証明せよ. ただし,真を1で偽を0で表わすものとする.[ Check ] [ Reset ] |
【問2】 次の真理表を埋めて,命題 ( p → q )または( q → p )がつねに成り立つことを証明せよ. ただし,真を1で偽を0で表わすものとする.[ Check ] [ Reset ] ※備考:これが成立するからと言って,次に述べる P⊂Q と Q⊂P のどちらかが成り立つというわけではない.P∩Q が空集合のときでもこの命題は真となる. |
■ p,q が条件であるときの命題 「p → q」 ( p ならば q ) の考え方○ 条件とはx>0 のようにそれだけでは真偽が定まらず,変数 x の値を具体的に定めれば真偽が定まる命題となるものを変数 x に関する条件という.変数を含んでいるのでこれらを p(x) , q(x) などで表わすとき, p(x) , q(x) それ自体は条件であって真偽は定まらない.(同様にして, , , p(x) かつ q(x) , p(x) または q(x) なども条件となり,これらも真偽は定まらない.) ○ p(x) , q(x) が条件のときでも,「すべての x について p(x) が成立する」という主張は命題になる.「すべての x について,ある条件 p(x) が成立する.」という主張や,「ある x について,ある条件 p(x) が成立する.」という主張は真偽の定まる命題となる.一般に,条件 p(x) に対して,「すべての x について 〜 」「ある x について 〜 」などを付け足したものは命題となる.(次の例3,例4) ○ p(x) → q(x) は,「すべての x について( p(x) → q(x) ) 」の省略形なので,命題になる. 「すべての x について,( p(x) → q(x) )」という形のものは命題で,真偽の定まるものとなる.
【重要】
例えば,「 x>3 → x>1 」は,「すべての x について,(x>3 → x>1 )」の省略である.「すべての x について,( p(x) → q(x) )」は,単に p(x) → q(x) と略されるので,p(x) → q(x) は命題となる. ※この項目を初めて学ぶときは,(x>3 が成立するようなすべての x について x>1 が成立する )と考えたくなるが,実は x>3 が成立しようがしまいが関係なく,「すべての x について」成立するので,この位置に書いて, x の値に応じて真偽を調べてみると例1で述べたように,仮定が偽であれば結論は何でもよい.条件としての考え方は以下に述べる.) |
||||||||||||||||||||||||
例1 x>0 を条件 p(x) で表わすとき, x=2 のときは p(x) は真,x= - 1 のときは p(x) は偽となる. 例2 x>0 を条件 p(x) で,x<3 を条件 q(x) で表わすとき,「 p(x) かつ q(x) 」も条件となり,それ自体では真偽は定まらないが, x=2 のときは 「 p(x) かつ q(x) 」は真,x=4 のときは 「 p(x) かつ q(x) 」は偽となる. 例3 x>0 は条件であってそのままでは真偽は定まらないが, 「すべての x について x>0 が成立する」という主張は,本当にすべての x について x>0 が成立すれば真となり,1つでも成立しない x が存在すれば偽となるので命題である.(上の命題は, x= - 2 などのとき成立しないから偽の命題である.) 例4 x2 - 2x - 3<0 は条件であってそのままでは真偽は定まらないが, 「ある x について x2 - 2x - 3<0 が成立する」という主張は,本当に1つでも x2 - 2x - 3<0 が成立するような x の値が存在すれば真で,どんな x を持ってきても x2 - 2x - 3<0 が成り立たなければ,これは偽となるから命題である.( x=0 のとき x2 - 2x - 3<0 となるから,これは真の命題となる. ) x ( x>3 → x>1 )の真偽
|
○ 条件は集合に対応している条件 p(x) は,この条件を満たす x の値の集合 P で表わすことができる. |
例5 条件 x>3 を満たす x の値は,次のような集合になる. 条件 (x - 1)2+y2<1 を満たす ( x , y ) の値は,次のような集合になる.(境界線を含まない) |
○ 命題 p(x) → q(x) は 2つの集合の包含関係が P⊂Q となるという主張に対応している 前に述べたように,命題 p(x) → q(x) は, したがって,P⊂Q の真偽によって,p(x) → q(x) を判断してよい. |
例7 x>3 を満たす集合を P,x>1 を満たす集合を Q で表わすとき, |
○ P⊂Q⇔⊂ だから p(x) → q(x) ⇔ → 次の図のように
P⊂Q が成り立つとき,⊂ が成り立ち,
⊂ が成り立つとき, P⊂Q が成り立つ から, p → q が成り立てば → が成り立ち, → が成り立てば p → qが成り立つ. これにより,ある命題 p → q とその対偶 → の真偽は一致するといえる. |
「犬(p) ならば 動物(q)である」は真である.これは,上の図において,犬の集合(P)が動物の集合(Q)の部分集合になっていることに対応している. このとき,「動物でない()ならば犬でない( )」は真である.これは,上の図において動物以外の集合()が犬以外の集合()の部分集合であることに対応している. |
※※== 小話 ==※※ 「しかられないと勉強しない」 ○ ある命題 p → q とその対偶 → の真偽は一致し,一方が成り立てば他方も成り立つ.これは,論理的に示されており疑う余地はない. ある家に勉強の嫌いな子どもがいて,「しかられないと勉強しない」とする.これは 1.「しかられない→勉強しない」とまとめることができる.○ 日常用語では,「〜ならば・・・」や「〜すれば・・・」という言い方には,時間的前後関係が付着しており,原因→結果を連想させることがある.この命題が正しいときでも,その対偶をとる(対偶を考えることを「対偶をとる」という)と時間的前後関係が反対になる. 例○ もともと数学・論理における命題 p(x) → q(x) は,集合の要素の関係 x∈ P → x∈ Q ,あるいは集合の包含関係 P⊂Q を表わしており,時間の前後とは関係ない.したがって,時間の経過に沿って並ぶときも,時間の経過の逆に並ぶときもある. 上の1.では, |
!!ここから下は,教材ではなく,.筆者の単なる感想です !! 眉につばの準備を
!! ※小話:日常用語では,数学的正確さよりも聞く人の気持ちを考えるべし?? ○ 元の命題が正しいときに,確実に言えるのは対偶だけであって,逆や裏は必ずしも正しくない.しかし,日常生活では,正確さを主眼として発言しているとトラブルになることがある. おそらく,日常生活では白黒(真偽)をはっきりさせることよりは,聞いている人の気持ちがメインとなるので,論理的な正確さは2の次になるのではないか. (裏は主張していないつもりだが)○ 言われていないことに意味がある.数学では主張されていること(命題)の真偽を扱っているが,言われていないことを重視する文化とは前提が違うかもしれない. 書道では,書かれた線と同様に空白の部分に意味があるという話,竜安寺の石庭で岩の置かれていない空白に意味があるという説など,日本文化の特徴として,話されていないこと,書かれていないものが重視されることがあるようなので,一応頭の隅に置いておくと分かることがあるかもしれない. |
...(携帯版)メニューに戻る ...メニューに戻る |
■[個別の頁からの質問に対する回答][逆裏対偶について/16.12.25]
この命題などに関する問題があればよかったと思います。
=>[作者]:連絡ありがとう.簡単な問題は問1,問2にあります.もっともよく使う対偶証明と背理法の問題はその次の頁にあります. |