x2−Dy2=1 (Dは平方数でない正の整数)
の形の不定方程式をペル方程式という.(右辺の定数が−1や±4となっているものもあるが,この教材では右辺の定数が1の場合だけを扱う)
高校の教科書には通常,ペル方程式は登場しませんが,ペル方程式には多くの題材が含まれており,大学入試問題にはよく出題されています.
以下の教材では,ペル方程式の専門的な議論はしません. この教材は,ペル方程式を題材にしながらも,高校で学ぶ2次関数,数学的帰納法,背理法,漸化式などを使いこなす練習を行うことを主なねらいとしています. 図1 のグラフは を漸近線とする双曲線を表します. x2−Dy2=1では, になっています. ○2 この方程式を満たす点(x, y)については,xの代わりに−xを,yの代わりに−yを代入しても成り立つから,グラフはx軸に対してもy軸に対しても,原点に対しても対称になっています. 以下においては,x≧0, y≧0の部分だけを考えます. 図2 右図で赤で示したように漸近線が格子点(x, yとも整数となる点)を無限個通る(*1)代わりに,双曲線はx軸上の自明解(x=1, y=0)以外には格子点を1つも通りません(*2). 図3 漸近線の傾きが無理数になり,漸近線は原点以外の格子点を1つも通らない(*3)代わりに,双曲線が格子点を無限個通り(*4)ます.
(上記の*1〜*4の説明)
(*1) 上の図で赤丸で示したように,(n, n)(n=1,2,3,...)となる点を無限個通ることは明らか. (*2) ア) x座標が整数であるとき,y座標が整数にはならないことを示すには,上の図で赤丸のy座標が整数であるのに対して,緑で示した棒の長さが常に1よりも小さくなることを言えばよい.(n−1<y<nの区間には整数はない) x=n(nは1よりも大きな整数)のとき,赤丸で示した漸近線上の点のy座標をy1,双曲線上の点をy2とすると,緑で示した棒の長さは y1−y2 ここでn>1だから が示される. イ) y座標が整数であるとき,x座標が整数にはならないことを示してもよいが,これは例えば次のように証明できる. のとき となり 隣り合う2つの整数y, y+1の間に整数はないから,xは整数ではない. (*3) 例えば,双曲線x2−2y2=1( )の漸近線の方程式は になるが,この漸近線が格子点(x, y)を通ると仮定すると となり,右辺が無理数,左辺が有理数となって矛盾. 以上により,ペル方程式を表す双曲線の漸近線は原点以外の格子点を1つも通らないことが言えます. (*4) この内容は以下に少しずつ示します. |
【簡単なチェック1】
参考答案を見るDが平方数,例えばD=4の場合 x2−4y2=1(x>0, y>0) について 漸近線は格子点(x, yとも整数となる点)を無限個通り,双曲線は格子点を1つも通らないことを示してください.
(1) 双曲線
の漸近線の方程式は になる.この問題では, と書けるから 第1象限(x>0, y>0)を通る漸近線の方程式は x=2n(n=1, 2, 3, ...)のとき,y=nとなるから,無限個の格子点(2n, n)を通る. (2) だから,yが整数ならばxは整数にならない.したがって,双曲線は格子点を通らない.
【簡単なチェック2】
参考答案を見るDが平方数でない正の整数,例えばD=3の場合 x2−3y2=1(x>0, y>0) について 漸近線は格子点(x, yとも整数となる点)を1つも通らないことを示してください. と書けるから 第1象限(x>0, y>0)を通る漸近線の方程式は この漸近線が格子点(x, y)(x, yは整数)を通ると仮定すると が成り立つことになり,左辺は有理数,右辺は無理数であるから矛盾.したがって,漸近線は格子点を通らない. |
〇 D=2となるペル方程式を題材として,いろいろな特徴を調べてみる. (数学的帰納法とペル方程式)
【例題1】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち とするとき, はすべてペル方程式 の解になることを示してください. 数学的帰納法によって示す. (T) n=0のとき となるから, このとき, が成り立つ. (U) n=k(k≧0)のとき となる について …(*) が成り立つと仮定する. で定義されているから であり したがって このとき が成立する. したがって,(*)はn=k+1のときも成立する. 以上の(T)(U)により,すべての整数n≧0について が成立する. |
【問題1】
参考答案を見るを展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち とするとき, はすべてペル方程式 の解になることを示してください.
数学的帰納法によって示す.
(T) n=0のとき となるから, このとき, が成り立つ. (U) n=k(k≧0)のとき となる について …(*) が成り立つと仮定する. で定義されているから であり したがって このとき が成立する. したがって,(*)はn=k+1のときも成立する. 以上の(T)(U)により,すべての整数n≧0について が成立する. |
(2次無理数と数学的帰納法) ( は無理数) の形の数を2次無理数という.この形の数は有理係数の2次方程式の無理数解となっている. 以下の教材ではm, nを正の整数,Dを平方数でない正の整数として の形の2次無理数を扱う. 例えば, は,2次方程式 の1つの解となっており,対となるもう1つの解は である.
【例題2】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち …(1) とするとき, を展開したときの整数の部分は , の係数は に等しい,すなわち …(2) となることを証明してください. ((1)を の定義として,(2)を証明してください.) 数学的帰納法によって示す. (T) n=0のとき となるから, このとき, が成り立つ. (U) n=k(k≧0)のとき となる について が成り立つと仮定する. このとき となる について すなわち となる. このとき が成立する. したがって,(*)はn=k+1のときも成立する. 以上の(T)(U)により,すべての整数n≧0について が成立する. |
【問題2】
参考答案を見るを展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち …(1) とするとき, を展開したときの整数の部分は , の係数は に等しい,すなわち …(2) となることを証明してください. ((1)を の定義として,(2)を証明してください.)
数学的帰納法によって示す.
(T) n=0のとき となるから, このとき, が成り立つ. (U) n=k(k≧0)のとき となる について が成り立つと仮定する. このとき となる について すなわち となる. このとき が成立する. したがって,(*)はn=k+1のときも成立する. 以上の(T)(U)により,すべての整数n≧0について が成立する. |
(ペル方程式と2次無理数)
【例題3】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち とするとき,【例題1】の結果を利用して がペル方程式 の解になることを使って, が成り立つことを証明してください. ここで【例題1】の結果を利用すると |
【問題3】
参考答案を見るを展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち …(1) とするとき, …(2) となることを証明し,それらを利用して がペル方程式 の解になることを証明してください.
前半の証明は問題2と同様にしてできるから,ここでは省略する.
後半の証明は例題3の逆になっていることに注意 の辺々を掛けると が成立する. |
(数列の一般項)
【例題4】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち を満たすとき,【例題3】の結果を利用して,数列 , の一般項をnで表す式を作ってください. …(1) …(2) (1)+(2) …(3) (1)−(2) …(4)
(参考)
(3)(4)式の見かけは複雑そうな根号計算となっていますが,実際にはすべてのn≧0 に対して整数になります.
(参考) ペル方程式を のように変形すると は急速に1に収束することから, の近似値として の値を利用することができる. 実際, に対して という数字が得られる. |
【問題4】
参考答案を見るを展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち を満たすとき, が成り立つことは証明なしで使ってよいものとする. これらを利用して,数列 , の一般項をnで表す式を作ってください. …(2) (1)+(2) …(答) (1)−(2) …(答) (参考) この形の2次無理数は,ペル方程式 x2−6y2=1 の解になっており,(x, y)の値を幾つか示すと (1, 0), (5, 2), (49, 20), (485, 198), (4801, 1960), ...となります. |
(連立漸化式)
【例題5】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち を満たすとき,数列 , が次の漸化式を満たすことを示してください. …(5) さらに,次の漸化式を満たすことを示してください. …(6) だから が成り立ちます. この結果を使うと,さらに 同様にして も示せます.
(5)式は
と書くことができ もしくは自明解 を用いて と書けることになります.これにより各々の解 は自明解から順次求められることになります. 逆に と書き直すと となって,各々の解から逆順にたどっていくと自明解に行き着くことが分かります. (6)の2つの式をかけ合わせて見ると が得られます.これにより となって,各々の解 がペル方程式を満たしていることを直接的に示すことができます. |
【問題5】
(解答)を展開したときの整数の部分を , の係数を で表すものとする.すなわち を満たすとき,数列 , が次の漸化式を満たすことを示してください. …(5) 一般に,a, bを正の整数,Dを平方数でない正の整数とするとき, を満たす整数の数列 , は次の漸化式を満たすことを示してください. …(5) だから が成り立ちます. 同様にして だから が成り立ちます. |
(最小解と2次無理数) 〇 ペル方程式の自明でない解のうちでxが最小(双曲線の第1象限の部分は単調増加関数になっているのでyも最小になる)となる解を最小解という. 〇 ここまでの記述では,ペル方程式の解き方の話でありながら実際には という形の2次無理数が主役となっており,自明解でない最小解(x1 , y1)が求まれば,2次無理数 を使ってすべての解が求められることを示した. Dが平方数でない整数のときに対応する最小解を求める問題は,数学史上興味深い問題となっており,幾つかの巧妙な解法が知られていますがそれについてはここでは触れません. D=61, 73, 85, 89, 94, 97などの場合には,最小解(x1 , y1)は非常に大きな数になります.特に,フェルマーが知人に宛てた手紙の中で示したといわれるD=61の場合 x2−61y2=1 の整数解は,最小のものでもxが10桁の整数,yが9桁の整数となっており,簡単には求められないものです. 〇 Dが1桁の整数の場合は,幾つか試せばペル方程式の最小解が求まるので,これを使ってペル方程式を解くことを考えます. D=2の場合
x2−2y2=1
において2y2は偶数,2y2+1は奇数になるので,整数xは奇数 自明解x=1 (y=0)を除いてx=3,5,..の順に検討すると 32−2×22=1 が成り立つから,x1=3 , y1=2が最小解となる. このとき,2次無理数は になります. となる整数(xn , yn )がすべての解を与えます. 一般解は 自明解は(1, 0),最小解は(3, 2) その他の解は(17, 12), (99, 70), (577, 408), ... D=3の場合
x2−3y2=1
において3y2は偶数にも奇数にもなり得ます, 自明解x=1 (y=0)を除いてx=2,3,4,..の順に検討すると 22−3×12=1 が成り立つから,x1=2 , y1=1が最小解となる. このとき,2次無理数は になります. となる整数(xn , yn )がすべての解を与えます. 一般解は 自明解は(1, 0),最小解は(2, 1) その他の解は(7, 4), (26, 15), (97, 56), ... D=4は平方数なので検討しません. D=5の場合
x2−5y2=1
において5y2は偶数にも奇数にもなり得ます, 自明解x=1 (y=0)を除いてx=2,3,4,..の順に検討すると 92−5×42=1 が成り立つから,x1=9 , y1=4が最小解となる. このとき,2次無理数は になります. となる整数(xn , yn )がすべての解を与えます. 一般解は 自明解は(1, 0),最小解は(9, 4) その他の解は(161, 72), (2889, 1292), (51841, 23184), ... D=6の場合
x2−6y2=1
において6y2は偶数,6y2+1は奇数になるので,整数xは奇数 自明解x=1 (y=0)を除いてx=3,5,7,..の順に検討すると 52−6×22=1 が成り立つから,x1=5 , y1=2が最小解となる. このとき,2次無理数は になります. となる整数(xn , yn )がすべての解を与えます. 一般解は 自明解は(1, 0),最小解は(5, 2) その他の解は(49, 20), (485, 198), (4801, 1960), ... |
(2次無理数と整数解の関係) ペル方程式x2−3y2=1に対して とおくと,一般解は 漸化式は,問題5の(5)より となります.これらX, Yと(xn , yn )の関係をグラフを用いて調べてみます. まず,Xの各々は実数値で,等比数列の第n項(下図の青で示した指数関数上の点)になっています.また, だから,Yの各々は下図の赤で示した指数関数上の点になります. を満たし, 自明解x0=1 , y0=0からスタートすると, のように,次々と解(xn , xn )が得られる. 逆に,ある1つの解x2=7 , y2=4からスタートして, の逆行列 を次々に掛けていくと となって自明解に到達するから,与えられた解は自明解から連なっている1つの系列の解であることが分かる.
※勢い余って,n=−1, −2, ..と負の数に突入してしまっても,特別変わったことは起こらない.実際,試してみると
のように,(x−n , y−n)=(xn , −yn)となっており,上の図の赤で示した点のようにx軸よりも下に(y座標の符号だけ逆になった形で)登場する.対応する2次無理数はもう一つ上の図のn<0の部分の赤の点になる. |
(この頁の要約)
(A)
ペル方程式
(x, y, Dは正の整数,Dは平方数でない)
Dが1桁の整数の場合,最小解はx, yの小さい値から試してみると簡単に見つかる. ※2 赤で示した矢印の部分を除いて,青枠の内部での変形は高校数学でできるので,その部分は大学入試問題として出されることがある. すなわち,上の表の(B)(C)(D)(E)のいずれかの局面からスタートして他の局面(A)(B)(C)(D)(E)に導く問題は,高校数学の範囲内である. これに対して,(A)からスタートしていきなり「解け」という問題は高校生には無理がある・・・特に,Dが2桁以上の値の場合は難し過ぎる. ※3 上の図で示したように最小解もしくは2次無理数が見つかれば,ペル方程式のすべての解が求まるが,運悪く最小でない解からスタートしてしまった場合,例えば.自明解と(x2 , y2 )から残りの解を構成していくと,偶数番目だけが登場し,奇数番目の解が登場しない.図5において1つ置きの点が現れる. ※4 Dが平方数の時はペル方程式とは呼ばれないが,この場合は第1象限において漸近線が無限個の格子点を通り,双曲線は1つも格子点を通らない.(簡単なチェック1) (ぎっしり並んだ立木の林で双曲線で飛ぶカーブ玉を投げているのに,すべての立木を外して通るというのは,考えてみればその方が驚きである) |
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