1. 1変数--高階導関数を用いた極値の判別(1)
1変数関数の場合,点(a, b)における第n次導関数の符号と極値の判別を振りかえってみると,次のようになっている.(高校数学Vの内容)
ウ)については「分からない」「判断できない」と述べているのではなく「第2次導関数までの材料だけでは,判断できないということで,第3次以上の導関数も調べれば判断できます.」 |
@ f’(a)=0, f”(a)=0, f(3)(a)>0のとき
次の表において,(B)(E)(H)が分かっているときに,表の残りの部分を埋めて,最終的に(J)(L)を見て,極値かどうか判断します.
下に文章で書いている考え方に慣れてください
f(x)が第3次導関数まで連続微分可能とすると,
f(3)(a)>0のとき,x=aの近傍でf(3)(a)は連続だから,急に符号が変わることはなく,(G)の符号が+だと分かる.同様にして,(I)の符号も+だと分かる. (E)においてf”(a)=0であるが,その導関数f(3)(x)の符号は,x>aのとき,(I)により正だから,f”(x)はx=aのとき0で,xが増加するとそれよりも増えるのだから,(F)の符号は正になる. 逆に,(G)によりx<aのとき,f(3)(x)の符号は正で,(E)においてf”(a)=0となるのだから「f”(x)は増えて0になる.」したがって,それまでは負だったことになり,(D)の符号は負になる. 同様にして,(B)においてf’(x)=0で,その導関数が(F)において正だから,f’(x)は0から増え,(C)の符号は正になる.逆に,(D)においてf”(x)が負で,(B)においてf’(x)=0となるのだから,f’(x)は減って0になることになり,それまでの(A)は正 (A)(C)の符号を見ると,(J)(L)において増加であることになり,x=aにおいてf(x)は極値とならない. |
A f’(a)=0, f”(a)=0, f(3)(a)<0のとき
ほぼ@と同様の考え方で,次の表が埋まります.これにより,x=aにおいてf(x)は極値とならない.
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B f’(a)=0, f”(a)=0, f(3)(a)=0, f(4)(a)>0のとき
ほぼ同様の考え方で,次の表が埋まります.これにより,x=aにおいてf(x)は極小値となる.
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C f’(a)=0, f”(a)=0, f(3)(a)=0, f(4)(a)<0のとき
ほぼ同様の考え方で,次の表が埋まります.これにより,x=aにおいてf(x)は極大値となる.
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さらに,第4次以上の導関数f(n)(a)=0の場合も,同様にして表を組み立てて行けば極値か否かを判断できる. 一般に次のことが言える. (1) a<xのときの導関数の符号はすべて同じになる. (2) x<aのときの導関数の符号は交互に変わる. (3) (1)(2)より,nが奇数のとき,f(k)(a)=0(1≦k<n),f(n)(a)>0, f(n)(a)<0のとき,f(a)は極値にならない. (4) (1)(2)より,nが偶数のとき,f(k)(a)=0(1≦k<n),f(n)(a)>0のとき,f(a)は極小値になり,f(k)(a)=0(1≦k<n),f(n)(a)<0のとき,f(a)は極大値になる. |
2. 1変数--高階導関数を用いた極値の判別(2)
高階導関数を用いて極値を判別する方法は,テイラー展開を利用して次のように書くこともできる.2回まで連続微分可能な関数f(x)があるとき,テイラーの定理により,次の形に書ける. (ただし,cはaとxの間の数)
(3.1)
(解説)ならばは極小値になる (3.2) ならばは極大値になる (3.1)← だから ここでは連続だから,のとき,x=aの近傍の値x=cでもとなる.
関数f”(x)は連続だから,連続の定義によって
以上により,となるから,は極小値になるどんな小さな正の値εを与えられても,適当な正の数δを選べば |c−a|<δ → |f”(c)−f”(a)|<ε が成り立つ.すなわち |c−a|<δ → f”(a)−ε<f”(c)<f”(a)+ε であるから (0<)ε<f”(a):f”(a)よりも小さな(正の数)εに対してはf”(c)>0となる (3.2)← 同様にして, においてf”(c)<0から,がいえる.よっては極大値になる. |
3回まで連続微分可能な関数f(x)があるとき,テイラーの定理により,次の形に書ける. (ただし,cはaとxの間の数)
(3.3)
(解説)のときは極値ではない (3.4) のときは極値ではない (3.3)← だから ここでは連続だから,のとき,x=aの近傍の値x=cでもとなる.
証明は(3.1)と同様
ここで,は正負の値をとるから,は正負の値をとる.よって,は極値ではない (3.4)← (3.3)と同様にして示される 以下同様にして示される.(証明略)
(3.7)
のときは極小値をとる (3.8) のときは極大値をとる |
3. 2変数関数における極値の定義
2変数の関数f(x, y)について,点(a, b)の近くの任意の点(x, y)に対して
(x, y)≠(a, b)ならばf(x, y)<f(a, b)
が成り立つとき,f(x, y)は,点(a, b)で極大であるといい,f(a, b)を極大値という.
(x, y)≠(a, b)ならばf(x, y)>f(a, b)
が成り立つとき,f(x, y)は,点(a, b)で極小であるといい,f(a, b)を極小値という. |
道路が山脈を横切るような場合,一番低い所で越える方が楽なので,道路は次の図で「峠」と書いた場所を横切ることが多い.
道路に沿って移動する限り,峠は一番高い箇所になる. これに対して,山の稜線に沿って移動する場合,峠は一番低い場所になる.(山岳用語で,この地形を「コル」という.もっとはっきりと「サカサマ峠」という地名になっている場合もある.) 地形で峠やコルと呼ばれる形は,数学用語では |
4. 2変数関数における極値の判別
【2変数関数が極値をとるための必要条件】
(解説)偏微分可能な関数が,点において極値をとるための必要条件は ・・・@ 極大値となるためには,yを固定して,xだけを変化させたときにも,点(a, b)において極大でなければならないから, 同様にして,xを固定して,yだけを変化させたときにも,点(a, b)において極大でなければならないから, 極小値についても同様
※前述の鞍点もこの条件@を満たすことから分かるように,@を満たすだけで極値になるとは言えない.@は極値をとるための必要条件であって,十分条件は別途検討しなければならない.
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【2変数関数が極値をとるための十分条件】
は連続2階微分可能とする. 関数がを満たすとき とおくと (1) @) ならばは極小である. A) ならばは極大である.
@)A)でのとき,の符号との符号は一致するので,との符号で判断してもよい.
(2)ならばは極値をとらない. (3) ならば,2階導関数までの値だけでは,極値か否かを判定できない.(さらに高階の導関数を調べれば,判別できることがある.極値である場合も,そうでない場合もある.)
判別に用いる式は,教科書によって,著者によって異なる
[A] 2次方程式の判別式に類似する形で上記のように
の2種類がある.出版物では[B]の流儀がやや多いようであるが,符号が逆になっているということに気を付ければよく,他に内容的な違いはない.で定義する教科書と [B] ヘッセ行列式[ヘッシアン]で定義する形 |
(解説) 2変数関数のテイラーの定理により いま,が成り立つから とおくと が十分小さいとき,この式の符号はで決まり,剰余項は無視できる. [T] のとき,とおくと この式の右辺は,の2次関数で,対応する方程式の判別式は 判別式が負,すなわちのとき,2次関数のグラフはt軸と交わらない(共有点をもたない)から@またはAの形になる. そのうち,2次の係数が正のものは@のグラフになるから がつねに正となる. よって (1) @)のとき,図@のグラフを見ると
つねに
A)のとき,図Aのグラフを見るとすなわち となって,は極小値になる.
つねに
すなわち となって,は極大値になる.
@)A)でのとき,だから,の符号との符号は一致する.だから,との符号で判断してもよい.
(無理して両方使う必要はないが,の符号に魔法のような重要さはないということです.) |
(2) のとき,図BCのように2次関数のグラフがt軸と交わるから
の符号は正にも負にもなる.
(3)すなわちの値は,よりも大きいものも小さいものもあるから,は極値ではない. のときは,2階導関数までの値だけでは極値か否かの判別はできないが,このことは「極値か否か分からない」ということではなく,「極値か否かはどちらかである」.
例えば,について,原点で極値をとるか否か調べると
[U] のときだから,とおくと同様の結果が得られる.だから,となるが, であるから,は極値でない. また,について,原点で極値をとるか否か調べると だから,となるが, であるから,は極小値である. |
5. 問題
【例5.1】
(解答)の極値を求めてください. より, このとき (または) により,点で極小値をとる. 極小値は, |
【例5.2】
(解答)の極値を求めてください. より, このとき よって,極値なし. |
【例5.3】
(解答)の極値を求めてください. より ・・・@ ・・・A @のとき だから,のとき極小になる.極小値は Aのとき だから,のとき極値でない. |
【例5.4】
(解答)の極値を求めてください. より ・・・@ ・・・A ・・・B ・・・C @のとき だから,のとき極小になる.極小値は Aのとき だから,のときは極値ではない. Bのとき だから,のときは極値ではない. Cのとき だから,のとき極大になる.極大値は |
【例5.5】
(解答)の極値を求めてください. より ・・・@ ・・・A ・・・B ・・・C |
@のとき だから,のときは極値ではない. Aのとき だから,のとき極小になる.極小値は Bのとき だから,のとき極大になる.極大値は Cのとき だから,のときは極値ではない. |
6. 条件付極値問題
ここまでに扱ったのは,次のような形で,2つの変数をを自由に変化させたときの極値を求める問題であった.
の極値を求めよ
これに対して,以下で取り扱うのは,次のAのような形で,2つの変数が条件を満たしながら変化するときの極値問題である.
・・・@のとき
この形の問題を「条件付の極値問題」という.(@の条件[副条件,制約条件]の下で,Aの極値を求める)・・・Aの極値を求めよ 高校数学に登場する簡単な例を使って,条件付の極値問題の解き方を振り返ってみる. 【例1】
・・・@のとき
・・・Aの極値を求めよ |
(解き方の要点)------
@により,2変数に制約条件(方程式)が1つあるから,自由度が1つ減る.
具体的には,という形で1つの変数について解いて,Aに「代入する」・・・(A)とAを1変数関数に書き換えることができる.
(答案)------そこで,この1変数になった関数を「微分すれば」・・・(B),極値を求めることができる.
(A) (B)
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【例2】
・・・@のとき
この問題では【例1】で使えた「1つの文字について解いて,代入することにより,変数を減らす」のは無理です.
・・・Aの極値を求めよ
■強いてなどと変形して,代入していくことはできますが,その試みは,とか3次関数になっているなど一般の場合に適用できる方法ではない.ここでは,広く一般に通用する方法を調べたいのでこの方法は採用しない.
ここで,手順を見直して,次の表のイメージで「微分してから,代入する」ことを考える.■条件式が円を表す場合には,,とおいて1つの媒介変数に直す方法もあるが,この方法も広く様々な関数に使えるものではない. ■高校では,Aを=kとおいて,@に代入することにより,実数条件を判別式で求めるという方法もよく用いられるが,その方法は@が2次関数である場合に限られる.だから,ここではこれも採用しない.
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@の両辺をで微分すると ・・・@’ Aの両辺をで微分すると ・・・A’ @’より ア) のとき A’に代入 ゆえに (極大) (極小) イ) のとき @より (極値ではない) |
以上の解き方を一般化すると,次のようになる.
・・・@のとき
@の両辺をで微分すると・・・Aの極値を求めよ ・・・@’ Aの両辺をで微分すると
[式1]
・・・A’ |
@’より のとき @’をA’に代入すると,Aが極値となる点では,次の関係が成り立つ. さらに,のとき すなわち,次の連立方程式を満たすものが求める極値である.
[式2]
・・・@ ・・・B |
7. ラグランジュの未定乗数法
6.で述べた解き方は,さらに次の「ラグランジュの未定乗数法」と呼ばれる形にまとめられることが多い.まず,6.Bの比例形条件式は1つの定数を使って2つの式に分けることができる. そうすると,6.で求めた解き方は,次の(1)を条件式として,(2)(3)を満たすものを極値とするという形にまとめることができる.
[式3]
(注:は右辺にある式を全部左辺に移項して,右辺を0にした形で使うものとする)・・・(1) ・・・(2) ・・・(3) さらに,これら3つの式は,次の形の1つの関数を導入すると,この関数の偏導関数として表すことができる. |
この式のを「ラグランジュ乗数」,この方法による解き方を「ラグランジュの未定乗数法」という.
[式4]
(解説)とおくとき ・・・(A) ・・・(B) ・・・(@) これら(@)(A)(B)が上記の(1)(2)(3)に等しいことを思いつくのは大変であるが[ラグランジュに感謝するほかない!],これらが等しいことは簡単に証明できる.
(A)⇔⇔(2)
※@Bもしくは(1)(2)(3)が2変数の条件付き極値問題であるのに対して,ラグランジュの未定乗数法(@)(A)(B)はこれを3変数の条件なし極値問題に書き換えていると見ることもできる.
(B)⇔⇔(3) (@)⇔⇔(1) |
8. 問題
■解き方も結果も別ルートで確認できる,高校数学Tレベルの問題で,解き方を確かめてみる■
【例1.1】
[式1]の方法で解いてみるのとき,の極値を求めてください. (解答) の両辺をで微分する ・・・@ の両辺をで微分する ・・・A @をAに代入する を解くと,極値となるための必要条件[停留点:極値の候補]は,を条件式に代入すると得られる
このとき |
■解き方も結果も別ルートで確認できる,高校数学Tレベルの問題で,解き方を確かめてみる■
【例8.1】
[式4]ラグランジュの未定乗数法で解くのとき,の極値を求めてください. (解答) とおく ・・・(1) ・・・(2) ・・・(3) ア)かつのとき
(1)(2)より
に代入 イ)のとき ウ)のとき |
【例8.2】
[式1]の方法で解いてみるのとき,の最大値,最小値を求めてください. (解答) の両辺をで微分すると ア)のとき
・・・@
イ)のときをで微分すると ・・・B @をBに代入 1) のとき 2) のとき---同様にして
より,
のとき ※(が増加するときのの増減)は次の矢印の符号の通り.ただし,が増加する方向に移動した場合の変化であることに注意. |
【例8.3】
上記の[式4]ラグランジュの未定乗数法で解くのとき,の最大値,最小値を求めてください. (解答) とおく …(1) …(2) …(3) ア)かつのとき
(1)(2)より
その1)のとき その1)のとき イ)またはのとき 上記のア)その1)と同じ結果になる [式1]の方法でを求めると,次のように増減表を組み立てることができる. |
【例8.4】
[式1]の方法で解くのとき,の最大値,最小値を求めてください. (解答) の両辺をで微分すると ア)のとき
・・・@
をで微分すると ・・・B @をBに代入 その1)のとき @に代入すると (極大かつ最大) その2)のとき @に代入すると (極小かつ最小) イ)のとき
@に代入すると
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ラグランジュの未定乗数法の説明をすると言いながら,[式1]の原始的な方法で説明しているじゃないか!この教材の作者は「裏切者か?」 増減表の説明には[式1]の原始的な方法が教えやすので,そちらでやっています.他方では,学生がラグランジュの未定乗数法の問題を出されたときに困らないように,そちらの説明もしています. 解き方は1つでなければならないなどと狭く絞るのでなく,解き方は幾つもあると考えてください.
【例8.5】
[式1]の方法で解くのとき,の最大値,最小値を求めてください. (解答) ・・・(#1)の両辺をで微分すると ア)のとき
・・・@
イ)のときをで微分すると ・・・B @をBに代入 その1)のとき (#1)に代入すると その2)のとき (#1)に代入すると
(#1)に代入
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