(この教材のレベル)
2010年現在,「1次変換」は高校の教科書にないので,高卒段階では1次変換のイメージが全くつかめないものとして記述 写像,変換の定義
集合Aの各要素を集合Bの要素に対応させる規則をAからBへの写像という.
【変換の例】写像のうち特に元の集合と対応させる集合とが同一であるものを変換という.(ある集合Aから集合A自身への写像を変換という.) 変換のうちで対応の規則が「定数項のない1次式」で表されるものを1次変換という. [平面上の点の移動 (x,y) → (x’,y’)]
x’=2x+3y+1
【1次変換の例】y’=x−y+3 このような定数項を含む変換はアフィン変換と呼ばれ,1次変換ではない. [平面上の点の移動 (x,y) → (x’,y’)]
x’=2x+3y
[3次元空間の点の移動 (x,y,z) → (x’,y’,z’)]
y’=x−y
x’=2x+3y+4z
y’=x−y+2z z’=3x+y−2z 1次変換の行列
1次変換x’=ax+by y’=cx+dy もしくは は,変換式の係数a, b, c, dもしくは,行列 で決まる.そこで,この行列を1次変換の行列という.(3次元のときも同様) |
(1.1) 1次変換による点の像
与えられた1次変換による点の像を求めるには変換の式 x’=ax+by y’=cx+dy に点の座標(x, y)を代入して計算すればよい. または,行列で書かれた変換式 に代入して,行列のかけ算を行えばよい.
【例1.1-1】
(解答)1次変換 x’=2x+3y y’=x−4y によって,点(−2, 3)はどのような点に移されるか. x’=2×(−2)+3×3=5 y’=(−2)−4×3=−14 (5, −14)…(答)
【例1.1-2】
(解答)1次変換 による点(3, 4)の像を求めよ. (2, 17)…(答)
【例1.1-3】
(解答)1次変換 x’=x+3y−z y’=2x+y+3z z’=4x−3y+2z にる点(1, −2, 3)の像を求めよ. x’=1+3×(−2)−3=−8 y’=2×1+(−2)+3×3=9 z’=4×1−3×(−2)+2×3=16 (8, 9, 16)…(答)
【例1.1-4】
(解答)1次変換 によって,点(1, 0, 2)はどのような点に移されるか. (8, −1, 5)…(答) |
(1.2) 1次変換による点の原像
1次変換Aによって点(x, y)が点(x', y')に移されるとき,
点(x', y')をAによる点(x, y)の像という
※原像とは,1次変換で移される元の図形のことだと考えればよい点(x, y)をAによる点(x', y')の原像という 与えられた1次変換による点(x', y')の原像を求めるには 変換の式 x’=ax+by y’=cx+dy を連立方程式として解き,(x, y)を求めればよい. または,行列で書かれた変換式 を逆に変換すればよい. |
【例1.2-1】
(解答)1次変換 x’=2x+3y y’=x+2y によって,点(1, 2)に移される元の点を求めよ. 連立方程式 2x+3y=1 x+2y=2 を解くと,x=−4, y=3 (−4, 3)…(答)
【例1.2-2】
(解答)1次変換 による点(−1, −2)の原像を求めよ. より (−2, 1)…(答)
【例1.2-3】
(解答)1次変換 x’=x−2y+3z y’=−x+y+z z’=2x+3y+z によって,点(4, 3, 5)に移される元の点を求めよ. 連立方程式 x−2y+3z=4 −x+y+z=3 2x+3y+z=5 を解く. クラメルの定理が楽 x=0, y=1, z=2 (0, 1, 2)…(答)
【例1.2-4】
(解答)1次変換 による点(0, 2, 3)の原像を求めよ. により,クラメルの定理で解くと (2, −1, 0)…(答) |
(1.3) 1次変換によるベクトルの像
与えられた1次変換によるベクトルの像を求めるには変換の式 x’=ax+by y’=cx+dy にベクトルの成分(x, y)を代入して計算すればよい. または,行列で書かれた変換式 にベクトルの成分を代入して,行列のかけ算を行えばよい. ただし,文章中で(x, y)のように行ベクトルで書かれるベクトルの成分は,行列計算ではのように列ベクトルにして右から掛ける 3次元の場合も同様
【例1.3-1】
(解答)1次変換 x’=2x+y y’=−x+3y によって,ベクトル(3, −1)はどのようなベクトルに移されるか. x’=2×3+(−1)=5 y’=−3+3×(−1)=−6 ベクトル(5, −6)に移される…(答)
【例1.3-2】
(解答)1次変換 によって,ベクトル(1, −1, 2)はどのようなベクトルに移されるか. ベクトル(1, 4, 9)に移される…(答) |
(1.4) 1次変換によるベクトルの原像
1次変換Aによってベクトル(x, y)がベクトル(x', y')に移されるとき,点の場合と同様に
点(x', y')をAによるベクトル(x, y)の像という
※原像とは,1次変換で移される元の図形のことだと考えればよい点(x, y)をAによるベクトル(x', y')の原像という 与えられた1次変換によるベクトル(x', y')の原像を求めるには 変換の式 x’=ax+by y’=cx+dy を連立方程式として解き,(x, y)を求めればよい. または,行列で書かれた変換式 を逆に変換すればよい. 3次元の場合も同様
【例1.4-1】
(解答)1次変換 x’=5x+2y y’=7x+3y によって,ベクトル(3, 4)に移される元のベクトルを求めよ. 次の連立方程式を解く 5x+2y=3 7x+3y=4 x=1, y=−1 元のベクトルは(1, −1)…(答)
【例1.4-2】
(解答)1次変換 によるベクトル(2, 0, 3)の原像を求めよ. より ここで とおくと ←転置されていることに注意 以上から 結局 (別解)…クラメルの公式で解く(こちらが楽) より |
(2.1) 1次変換の線形性
行列Aによって表される1次変換は,次の関係を満たします.これら2つをまとめて1次変換の線形性といいます.
(1)
この線形性により,図形の1次変換について次の性質が成り立ちます.(変換行列が正則でない場合[行列式が0のとき]は,直線が点に移されることもある)
2つのベクトルの和を1次変換したものは,各々のベクトルを1次変換してから和を求めたものに等しい
⇔1次変換とベクトルの和は順序を入れ替えることができる
(2)
ベクトルの定数倍を1次変換したものは,ベクトルを1次変換してから定数倍したものに等しい
⇔1次変換とベクトルの定数倍は順序を入れ替えることができる
以上の(1)(2)から,一般に,a, bを定数とするとき(*) が成り立ちます.
(A) 直線は直線に移される
(解説)(B) 線分の内分比,外分比は,変換の前後で変化しない (A)← 点を通り,方向ベクトルに平行な直線は,ベクトルを用いて (は実数) で表される. 位置ベクトル, 点,方向ベクトルの1次変換Aによる像を各々,,とすると,(1)(2)より すなわち これは,点を通り,方向ベクトルに平行な直線上にあることを示している. すなわち,直線は直線に移される. (B)← 点が,2点を結ぶ線分をに内分するとき このとき,点の1次変換Aによる像を各々とすると, 線形性(1)(2)により これは,が,2点を結ぶ線分をに内分することを示している. 外分の場合も同様 |
(2.2) 直線の像の求め方
【例2.2-1】
(解答1) 2点の像で求める1次変換 によって直線はどのような図形に移されるか
1次変換の右辺に点の座標は代入できるが,(x, y)の所は方程式を直接代入できる形になっていない.
元の直線上から2点O(0, 0), P(1, 3)を選ぶ.そこで「直線は直線に移される」ことを利用する:元の直線上で適当な2点を選び,その像を求めると新しい直線上の2点が求まるので,その2点を通る直線の方程式と求めるとよい.
• 2点(のとき)
を通る直線の方程式は 「直線は直線に移される」から,求める図形は2点(0, 0), (11, 11)を通る直線になる. …(答) (解答2) 媒介変数で求める
1次変換の右辺(x, y)の所は方程式を直接代入できる形になっていないが,x=...t, y=...t という媒介変数表示にすれば,点の座標として分けて代入できる
直線の方程式を媒介変数表示に直す(は任意の実数) …(@) …(A) (@)(A)から媒介変数を消去してx', y'の方程式に直すと 普通にx, yの方程式として書くと …(答) (解答3) 旧座標x, yを消去してx', y'の関係式を求める 変換式と元の方程式 …(@) …(A) …(B) が与えられていて,求めたいものは新座標x', y'の関係式だから,(@)(A)をx, yについて解き,これを(B)に代入して旧座標x, yを消去し,新座標x', y'の関係式を求めるとよい. (@)+(A)×2 …(*1) (@)×4−(A)×3 …(*2) (*1)(*2)を(B)に代入すると 普通にx, yの方程式として書くと …(答) |
【例2.2-2】
(解答1) 2点の像で求める1次変換 によって直線はどのような図形に移されるか 元の直線上にある点(1, 2)は により(3, 1)に移される 元の直線上にある点(−3, −1)は により(−4, 7)に移される 2点(3, 1), (−4, 7)を通る直線の方程式は …(答) (解答2) 媒介変数で求める
媒介変数表示に直すには
から …(@) …(A) などとしてもよいが,次のように少し工夫すれば整数係数にできる 変換式に代入すると 媒介変数を消去してx', y'の方程式にすると 普通にx, yの方程式として書くと …(答) (解答3) 旧座標x, yを消去してx', y'の関係式を求める 変換式と元の方程式 …(@) …(A) …(B) から旧変数x, yを消去してx', y'の方程式を求める (@)×3+(A) …(*1) (@)×2−(A) …(*2) (*1)(*2)を(B)に代入すると 普通にx, yの方程式として書くと …(答) |
** 1次変換の行列が正則でないとき(行列式が0になるとき) **
【例2.2-3】
(解答1) 2点の像で求める1次変換 によって直線はどのような図形に移されるか 元の直線上にある点(1, 1)は により(−1, 2)に移される 元の直線上にある点(3, 2)は により(−1, 2)に移される 「線分の内分比,外分比は,変換の前後で変化しない」から,元の直線上にある点はすべて点(−1, 2)に移される…(答)
「(A)直線は直線に移される,(B)線分の内分比,外分比は,変換の前後で変化しない」の2つを踏まえれば,数学的にこれで証明できていると考えられるが,モヤモヤ感が残る人がいるかもしれない
(解答2) 媒介変数で求める元の直線を媒介変数表示で表すと 変換すると したがって,元の直線上の点はの値に関わらず,点(−1, 2)に移される…(答)
(参考)
(解答3×) 旧座標x, yを消去してx', y'の関係式を求める×1次変換 では,平面上の任意の点に対してが成り立つから,平面全体が直線に移される(つぶれる) 特に,直線上の点は,すべて点に移される. この1次変換を表す行列は,行列式が0で,逆行列が存在しないので,(x, y)を(x', y')で表すことはできない |
(2.3) 図形の原像の求め方
【例2.3-1】
(解答) 次の解き方が断然有利1次変換 によって直線に移される元の図形の方程式を求めよ
この解き方は,与えられた図形が直線図形以外の例えば円のような図形であっても適用できる
…(@)…(A) …(B) が与えられているときに,新座標を消去して,旧座標の関係式を作ればよいのだから,(@)(A)を(B)に代入する. …(答)
【例2.3-2】
(解答)1次変換 によって円に移される元の図形の方程式を求めよ …(@) …(A) …(B) (@)(A)を(B)に代入する. …(答) |
(2.4) 不動直線
【例2.4-1】
(解答)1次変換 によって原点を通る直線が自分自身に移されるとき,定数の値を求めよ …(@) …(A) …(B) (@)(A)を(B)に代入する. …(C) (C)式が(B)式と一致するには …(D) …(E) (E)より これは(D)を満たす.…(答)
(参考)
ある直線が自分自身に移されるとは,ある直線全体がその直線全体に移されるということで,個々の点が一致するとは限らない. 例えば,上記のすなわちの場合,その直線上の点(1, 1)は(9, 9)に移される.[どの点も原点から9倍遠ざかる]が,同じ直線上にある. また,上記のすなわちの場合,その直線上の点(1, −4)は(4, −16)に移される.[どの点も原点から4倍遠ざかる]が,同じ直線上にある. |
(2.5) 不動点
【例2.5-1】
による1次変換で原点以外に不動点が存在するように,定数の値を定めよ
どんな1次変換でも,原点は原点に移されます.
(解答)すなわち,原点は自明な不動点です.これに対して,原点以外の不動点が存在するのは,特別な場合です. 不動点をとおく より 左辺の係数行列について,逆行列が存在すれば となって,不動点は原点だけとなるから,逆行列が存在しないことが原点以外の不動点が存在するための必要条件になる このとき となるから,は不動点となる …(答) |
(3.1) 1次変換の行列を逆算する
2点とその像が与えられると,1次変換の行列を逆算することができます.1次変換 によって,点が点に移され,点が点に移されることが分かっているとき,1次変換の行列を次のように逆算して求めることができます. これらをまとめて書くと もし,に逆行列が存在すれば,両辺に右から掛けることによって
※2つのベクトルととが平行でなければ,逆行列が存在します.
【例3.1-1】
(解答)点(1, −1)を(3, 2)に移し,点(−1, 2)を(−4, 1)に移す1次変換の行列を求めよ 求める行列をAとおくと より …(答) |