このページでは,連立1次方程式の解き方のうちで「クラメルの公式」と呼ばれる解き方を具体例を用いて解説し,簡単な連立方程式が解けるようになることを目標とする.
2x+5y=9 …(1.1)内容は大学の基本レベルで,行列式の計算を利用する. クラメルの公式が成り立つことの証明は,別のページに書いてあります. 3x−4y=2 この2元連立1次方程式の解は,係数行列の行列式が0でないとき,次のように係数行列の行列式の割り算で表されるというのが「クラメルの公式」です. (1.1)の左辺の係数行列の行列式を
と求めることができる. 同様にして,yの値を求めるには,yの係数を右辺のベクトルに入れ替えた行列の行列式
と求めることができる. 2×2行列の行列式は のように計算するので,上記のx, yの値は,次のようになる. 以上により,2元1次連立方程式(1.1)の解は,(x, y)=(2, 1)となる.
ちょっと一息
スイス人cramerの名を英語読みすればクレイマーになるが,文句を言う人claimerとは違い,商人という意味らしい. 外国人の名前をカタカナ表記にするとバラバラに分かれるが,手元にある線形代数の教科書10冊の中では,クラメル5冊,クラーメル3冊,クラメール2冊とクラメルが一番多いので,このページではクラメルに揃えることにした. この公式はクラメルが1748年に出版した代数学の書物に書かれていたので,後にクラメルの公式と呼ばれるようになったが,実際にはマクローリンがそれよりも数十年前に見つけていたと言われている. |
【要点1】
(1) 連立方程式 ax+by=p cx+dy=q は,係数行列の行列式
=ad−bc
が0でないとき,次の形で解が求められる.これをクラメルの公式という.
xを求めるとき,係数行列のxの係数を右辺の定数ベクトルに書き換えたものを分子にする. yを求めるとき,係数行列のyの係数を右辺の定数ベクトルに書き換えたものを分子にする. (2) 係数行列の行列式ad−bcが0になる場合は,この公式では解は求まらない.(行基本変形など別の方法を使うとよい) |
【例題1.2】
(解答)次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. x+2y=8 −2x+y=−1
分母は,
分子は,
分母は,
分子は, 以上により,連立方程式(1.2)の解は,(x, y)=(2, 3)となる. |
【例題1.3】
(解答)次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 3x+y=8 2x−3y=9
分母は,
分子は,
分母は,
分子は, 以上により,連立方程式(1.3)の解は,(x, y)=(3, −1)となる. |
【問題1.4】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 3x+5y=2 2x+3y=3 |
【問題1.5】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 2x−3y=8 4x−5y=14 |
【問題1.6】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 2x+5y=1 3x+4y=2 |
【問題1.7】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. −2x+5y=1 3x+y=−2 |
[3次の行列式の求め方:簡単に復習] (A) 3次正方行列の行列式の値を求める「サラスの方法」と呼ばれる覚え方がある(sarrus[フランス人,人名]). (B) ただし,サラスの方法は4次以上の場合には適用できないので,ここでは余因子展開によって行列式の値を求める方法も解説する.
=a11a22a33+a12a23a31+a13a32a21
(B) 余因子展開では,まずi行j列の成分に(−1)i+jの符号を持たせる.要するにi+jが偶数ならば正,奇数ならば負の符号となるから,1行1列の成分を正として,チェック模様に交互に符号を付けることになる.−a31a22a13−a11a23a32−a21a12a33
例えば,3次の行列式 を1列目に沿って展開する方法で,2次の行列式によって計算すると 1行目に沿って展開した場合は 2行目に沿って展開した場合は ※どの行,どの列に沿って展開しても結果は等しくなるが,実際の計算にあたっては,0や1の成分が多い行や列に沿って展開すると,計算が楽になり計算間違いが少なくなる. |
【例題2.1】
(解答)次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. x+y+z=3 2x+3y+4z=−1 3x+5y+8z=2
≪サラスの方法で行列式の値を求める場合≫
分母は, 分子は, ゆえに ≪余因子展開で行列式の値を求める場合≫ (1行に沿って展開すると)分母は, (1行に沿って展開すると)分子は, ゆえに
≪サラスの方法で行列式の値を求める場合≫
分母は,xの場合と同じだから1 分子は, ゆえに ≪余因子展開で行列式の値を求める場合≫ (1行に沿って展開すると)分母は,xの場合と同じだから1 (1行に沿って展開すると)分子は, ゆえに
≪サラスの方法で行列式の値を求める場合≫
分母は,xの場合と同じだから1 分子は, ゆえに ≪余因子展開で行列式の値を求める場合≫ (1行に沿って展開すると)分母は,xの場合と同じだから1 (1行に沿って展開すると)分子は, ゆえに 以上により,連立方程式の解は,(x, y, z)=(17, −21, 7)となる. |
【問題2.2】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 2x−y+3z=5 3x+4y−z=2 −x−2y+3z=4
(解答)
途中経過省略
分母は,22 分子は,0 ゆえに
途中経過省略
分母は,22 分子は,22 ゆえに
途中経過省略
分母は,22 分子は,44 ゆえに 以上により,連立方程式の解は,(x, y, z)=(0, 1, 2)となる. |
【問題2.3】
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次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. 4x+3y=1 3x+y+z=−2 −x+5y−2z=15
(解答)
途中経過省略
分母は,−13 分子は,26 ゆえに
途中経過省略
分母は,−13 分子は,−39 ゆえに
途中経過省略
分母は,−13 分子は,−13 ゆえに 以上により,連立方程式の解は,(x, y, z)=(−2, 3, 1)となる. |
4次の正方行列に対する行列式には,サラスの方法は使えないので,余因子展開で行うとよい. まずi行j列の成分に(−1)i+jの符号を持たせる.要するにi+jが偶数ならば正,奇数ならば負の符号となるから,1行1列の成分を正として,チェック模様に交互に符号を付ける.
例えば,4次の行列式 を1列目に沿って展開する方法で,3次の行列式に直して計算すると ※1) 各々の3次の行列式の計算方法は,ここまでに行ってきた通り. ※2) どの行,どの列に沿って展開しても結果は等しくなるが,実際の計算にあたっては,0や1の成分が多い行や列に沿って展開すると,計算が楽になり計算間違いが少なくなる. 4次の行列式の計算は,計算量が多くて大変であるが,特に1つの列や行に0が多いと計算が楽になることから,行列式の基本変形を利用して,あらかじめ0を増やすことができる.
【行列式の基本変形】
(A) ある行に他の行の定数倍を加えても行列式の値は変わらない. (B) 列についても同様である.
行列式の基本変形について,十分理解できていない場合でも,上の(A)で述べたことは,連立方程式の変形方法として「(1)式を2倍して(2)に加える」など中学高校で普通に使ってきた内容と同じである.
行列式の値としては,(B)に述べたように「ある列に他の列の定数倍を加える」という変形も可能である. |
【4次の行列式の計算練習】
【例題3.1】
(解答)次の行列式の値を求めてください. ≪とにかく余因子展開を行う場合≫…0が1つある4列目に沿って展開すると 次に,3次の行列式3個を,サラスの方法か余因子展開によって求めるのであるが,相当な根性物語になる.(それでもできる人はやればよいが,筆者はここまでで保留にしておく) ≪行基本変形を行って0を増やす場合≫ (2)行−(1)行×2,(3)行+(1)行,(4)行−(1)行の変形を行うと1列目に0が増える この行列式を1列目に沿って展開すると,3次の行列式になる さらに(2)行+(1)行×2の変形を行うと1列目に0が増える この行列式を1列目に沿って展開すると,2次の行列式になる ここまで来ると暗算でできる |
【例題3.2】
(解答)次の行列式の値を求めてください. ≪行基本変形を行って0を増やす場合≫ (1)行−(4)行×4,(2)行−(4)行×2,(3)行−(4)行×3の変形を行うと1列目に0が増える この行列式を1列目に沿って展開すると,3次の行列式になる さらに(1)行−(2)行×3, (3)行−(2)行×2の変形を行うと1列目に0が増える この行列式を1列目に沿って展開すると,2次の行列式になる ここまで来ると暗算でできる |
【問題3.3】
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次の行列式の値を求めてください.
(解答)
≪2列目に0があるので行基本変形を行って0を増やす≫ (1)行−(4)行×4,(3)行−(4)行×2の変形を行うと2列目に0が増える この行列式を2列目に沿って展開すると,3次の行列式になる [連立方程式としては,列基本変形を行うと,例えばxとyの係数を入れ替えるとxとyの値が入れ替わってしまうが,「行列式の値を求める」ことと割り切れば,列基本変形も行える] 2行3列成分が1だから,これを使って2行目に0を増やす (1)列−(3)列×2, (2)列−(3)列×2の変形を行う この行列式を2行目に沿って展開すると,2次の行列式になる ここまで来ると暗算でできる |
【問題3.4】
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次の行列式の値を求めてください.
(解答)
≪3行3列目に−1があるので,この値を定数倍して3列目に0を増やす≫ (1)行−(3)行×4,(2)行+(3)行×3, (4)行+(3)行×2 この行列式を3列目に沿って展開すると,3次の行列式になる (1)列−(3)列 (1)行+(2)行×5 この行列式を1列目に沿って展開すると,2次の行列式になる (1)行−(2)行×9 ここまで来ると暗算でできる |
【例題4.1】
(解答)次の連立方程式をクラメルの公式を使って解いてください. x+2y+3z−4w=6 2x+y−z−2w=−3 2x+3y+2z−w=2 x+2y−z+w=−6
■共通の分母■ ⇒1列目に0を増やす: (2)行−(1)行×2, (3)行−(1)行×2, (4)行−(1)行 1列目に沿って余因子展開 ⇒ (1)行−(2)行×3 1列目に沿って余因子展開 ⇒ (1)行+(2)行×3 ■xの分子■ ⇒ (2,2)成分の1を使って,2列目に0を増やす: (2)行−(1)行×2, (3)行−(1)行×2, (4)行−(1)行 2列目に沿って余因子展開 ⇒ (3,2)成分の1を使って,3行目に0を増やす: (3)列−(2)列×5 3行目に沿って余因子展開 ■yの分子■ ⇒1列目に0を増やす: (2)行−(1)行×2, (3)行−(1)行×2, (4)行−(1)行 1列目に沿って余因子展開 ⇒ 3行目に0を増やす:(3)行−(2)行 3行目に0を増やす:(3)列−(1)列 3行目に沿って余因子展開 ■zの分子■,■wの分子■も同様にして計算すると,各々−150と0になる 以上により,連立方程式の解は, (x, y, z, w)=(1, −2, 3, 0)となる. |
【問題4.2】
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クラメルの公式を使って,次の連立方程式の解を求めてください. 2x+y+3z−w=−8 −x+5y+2z+2w=9 3x+z+4w=1 4y+2z+w=4
(解答)
(x, y, z, w)=(−2, 1, −1, 2)
【問題4.3】
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クラメルの公式を使って,次の連立方程式の解を求めてください. 4x+y+2z+w=12 −x+5y+2w=−3 3x+2y+z=2 3x+2z+w=13
(解答)
(x, y, z, w)=(1, −2, 3, 4) |