○高校数学の行列は旧教育課程の数学Cに含まれていたが,平成21年(2009年)告示の教育課程では数学Cはなくなっており数学Vなどの他の科目にも行列は含まれなかったため,高校では行列計算は原則として習わない. ○高校の教育課程からなくなったということは大学入試問題では忠実に反映されるので,行列そのものを出題することはないが,高卒向けや大卒向けの就職試験となるとこの制限はあいまいになる. ○この頁では「高校の旧教育課程にあった数学Cのレベル」で「2×2行列に限定して」行列のn乗を扱う. *** 目次 ***(クリックすれば該当項目へジャンプ) |
【問題1.1】
参考答案を見る(1) aを0でない実数とし,とする. を求めよ. (2) 上の行列に対して,(1)の結果からを推定し,その推定が正しいことを数学的帰納法を用いて証明せよ. (山形大学[平成17年度]からの一部引用)
(1)
(2) …(*) と推定する. 次に,(*)を数学的帰納法により証明する. (T) n=1のとき だから(*)は成立する. (U) n=k(k≧1)のとき(*)が成立すると仮定すると 両辺に右から行列を掛けると したがって,n=k+1のときも(*)が成立する. (T)(U)よりすべての自然数nについて(*)が成立する.
【問題1.2】
参考答案を見る(1) とするとき,を求めよ. (2) を推定し,その推定が正しいことを数学的帰納法を用いて証明せよ.
(1)
(2) …(*) と推定する. 次に,(*)を数学的帰納法により証明する. (T) n=1のとき だから(*)は成立する. (U) n=k(k≧1)のとき(*)が成立すると仮定すると 両辺に右から行列を掛けると したがって,n=k+1のときも(*)が成立する. (T)(U)よりすべての自然数nについて(*)が成立する. |
【問題2.1】
参考答案を見るとする.このときであることを示し,に対してを求めよ. (新潟大学[2000年度]からの一部引用)
前半のケーリー・ハミルトンの定理が成立することの証明は,ここでは省略する.
が成り立つ. そこで,多項式についての恒等式 …(1) となるを求めておく. を代入すると…(2) を代入すると…(3) (2)(3)より このとき(1)式は となるから ここでケーリ−・ハミルトンの定理により だから 右辺を計算すれば,が求まったことになる.
【問題2.2】
参考答案を見るのときを求めよ.
ケーリー・ハミルトンの定理により
が成り立つ. そこで,多項式についての恒等式 …(*) となるを求めておく. を代入すると…(1) (*)の両辺を微分すると …(**) を代入すると…(2) (1)(2)より このとき(1)式は となるから ここでケーリ−・ハミルトンの定理により だから 右辺を計算すれば,が求まったことになる. |
【問題3.1】
参考答案を見るのときを求めよ.
とおく.
の成分を比較すると …(1) …(2) …(3) …(4) (1)+(2) だから …(5) (1)−4×(2) は公比4の等比数列になるから …(6) (5)(6)より 同様にして ゆえに
【問題3.2】
参考答案を見るのときを求めよ.
とおく.
の成分を比較すると …(1) …(2) …(3) …(4) (1)より …(5) (1)+(2) は公比3の等比数列になるから …(6) (5)(6)より 同様にして ゆえに 重解を持つ場合,例えば,のとき,の重解になりますが,これでできる漸化式を解くと となって,1つ解けますので,これを連立漸化式の一方に代入すると(または)が消去できて,2項間漸化式となり,普通に解けます. |
[4] 行列の対角化を意識して解く方法
○行列の対角化は,行列の固有値,固有ベクトルを使うもので,大学の入試問題には行列のn乗を対角化を使って求めさせる問題が多い.ただし,行列の対角化それ自体は高校数学の範囲内にない(現在では行列自体もない)ので,入試問題として出題されるときは無理なく解けるように誘導問題になっている. ただし,話の筋書きを知っておくと,そもそも何をやっていてどこに連れていくのかが分かるので,方針を立てやすい. ○はじめに,対角行列は積の計算が簡単で,特に対角行列のn乗は各成分のn乗で求めることができることを思い出そう. この性質を行列のn乗を求める計算に利用することができる. ○ただし,次に述べる「行列の対角化」とは対角行列でない行列を対角行列に変形するということではないことに注意しよう.対角行列でないものが対角行列に変形できたら,当然のことながら,その変形は間違っている. 行列の対角化とは, 行列が与えられたときに 対角行列
2016年のピコ太郎は
※言ってみただけ〜♪ と他にもう1つの行列を見つけて のように「サンドイッチの形で表すこと」を言います. と書いてもよい. ○与えられた行列に対して,うまく と変形できれば,なぜうれいしのかというと となり,真ん中のが単位行列になるので ところが対角行列の積は成分の積になるので
◎は簡単に求められるので
同様にして対角行列と対角化行列により または に持ち込むところがミソ 一般に のように何乗でも簡単に計算できます. から と変形しても同じです.
大学入試では高校の教育課程の範囲内にないものは出せませんが,対角化行列と対角行列が与えられていて
が誘導問題として示されていれば高校数学の範囲内になります. これに対して,固有値から対角行列を求め,固有ベクトルから対角化行列を自分で計算しなければならないのが大学での取り扱いです. ※(高卒向け)固有値,固有ベクトルをもとめて行列を対角化する方法はこの頁
【例題4.1】
(解答)とするとき ウであり,これを用いて行列を求めるとエである. (福岡大[平成17年度])
の逆行列は
ここで,は行列の行列式を表す. だから
【例題4.2】
(解答)3つの行列を次のようにおく. このとき次の問いに答えよ. (1) の逆行列およびを求めよ. (2) を求めよ. (岩手大[2000年度]一部引用)
の逆行列は
(1)ここで,は行列の行列式を表す. 対角成分は入れ換える.対角でない成分は符号だけ変える. (2) に対して,左からを右からを掛けると |
【問題4.1】
参考答案を見るとするとき (1) の逆行列およびを求めよ. (2) を求めよ.
(1)
(2) だから
【問題4.2】
参考答案を見るとするとき (1) の逆行列およびを求めよ. (2) を求めよ.
(1)
(2) だから |
...(携帯版)メニューに戻る ...(PC版)メニューに戻る |
■[個別の頁からの質問に対する回答][行列のn乗について/18.9.2]
問題4.1の(2)の解説の、答えとなる行列の、2行1列目の成分で、マイナスが分母と分子の間の線のところの左横に来ていますが、正しくは分子の2^(n+1)の左横に来るべきだと思います
■[個別の頁からの質問に対する回答][行列のn乗について/18.9.2]
=>[作者]:連絡ありがとう.ズバリ書き損じがありました.よく見ると(1)の段階ですでに…訂正しました. 例題1.2に登場するΣの上端は、nではなくn-1だと思ったのですが、どうなんでしょうか?
■[個別の頁からの質問に対する回答][行列のn乗について/18.6.28]
=>[作者]:連絡ありがとう.訂正しました. [4] 行列の対角化を意識して解く方法のPがあらかじめ提示されてましたがPを求める方法が知りたいです
■[個別の頁からの質問に対する回答][行列のn乗について/18.5.13]
=>[作者]:連絡ありがとう.その内容は完全に高校数学の範囲を外れますので,このページを見てください. 的確かつ簡潔で、知りたいことが見事に解決しました。素晴らしいです。
元ネタや、参考文献はあるのですか。
■[個別の頁からの質問に対する回答][行列のn乗について/18.4.10]
=>[作者]:連絡ありがとう.参考文献というものはありません.高校で教えていたときに出会った内容をまとめて,補強したものです. P-1AP計算で答案では右からの行列計算ですが、左からの行列計算でも良いのですよね…結果は同じ様ですが…。問題4.1で最後の答でCnの場合-2のn+1乗+2✖5のn乗/3ではありませんか?…-が抜けていると思いますが…、宜しくご指導ください。
=>[作者]:連絡ありがとう.Cnの場合というのが何を意味するのか伝わってきませんが,2,1成分の符号に間違いがありましたので訂正しました. |