■行列の乗法の性質 行列の積が定義できるとき,一般に 1 (積に関する)結合法則が成立します。 2 (和の上への積の)分配法則が成立します。 C(A+B)=CA+CB
※ 当然のようですが,説明は難しい事柄:
(a × b) + c ≠ (a + c) × (b + c)
(A × B) + C ≠ (A + C) × (B + C) |
結合法則が成立する例:
※ 結合法則や分配法則の成立を一般的に示すには,行列の型に応じて,成分の数だけ両辺を比較する「息の長〜い計算」をします。(略) |
左右の位置を入れ替えても積が定義できる場合について,
3[重要] (積に関する)交換法則は成立しません。 例 したがって,交換法則が成立しないという主張にとって,AB=BAとなる例が幾つあっても関係ありません。 たとえ話による解説:
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※A,Bが正方行列でないときは,積の型が異なるためAB≠BAは自明です:
→ [3×2型][2×3型]=[3×3型]になります。
→ [2×3型][3×2型]=[2×2型]になります。
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【要約】
積が定義できるとき ※行列の積については交換法則が成り立たないので,中学校以来慣れてきた文字式の変形を不用意に行わないように,細心の注意を払わなければならない. ただし,何もできない訳ではなく,右に示したようにできる場合もあることもまた覚えておかなければならない. |
2×2行列の積について,交換法則が成り立つ場合の例 (1) ある行列Aと単位行列E,零行列0は交換可能 だから,AE=EAはつねに成り立つ だから,A0=0Aはつねに成り立つ
AA2=A2A=A3 や A2A3=A3A2=A5のように1つの行列のべき乗はつねに交換可能
(3) 対角行列と対角行列は交換可能
対角行列の積は,対応する対角成分の積で求められます
だから,AE=EAはつねに成り立つ |
[問題] 2×2行列について,任意の行列をA,B,C,単位行列をEとするとき,次のうちで正しいものを選んでください. (ただしいものをクリック) (1) (A+B)2=A2+2AB+B2 は |
(A+B)2=A2+AB++BA+B2 は成り立ちますが,交換法則が成り立たないので,AB=BAとは限らず,この式がA2+2AB+B2に等しいとは限りません. ただし,絶対成り立たない訳ではなく,A,Bをうまく選べば(B=Eの場合など)成り立つ場合があります.⇒「成り立つとは限らない」 |
(2) (AB)2=A2B2 は |
(AB)2=ABAB は成り立ちますが,交換法則が成り立たないので,AB=BAとは限らず,2番目の行列Bと3番目の行列が交換できるとは限らない. ただし,絶対成り立たない訳ではなく,A,Bをうまく選べば(A=Eの場合など)成り立つ場合があります.⇒「成り立つとは限らない」 |
(3) (AB)C=A(BC) は |
初めの解説に在るように,結合法則は常に成り立ちます.
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(4) (A+B)C=AC+BC は |
初めの解説に在るように,分配法則は常に成り立ちます.
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(5) (A+B)(A−B)=A2−B2 は |
(A+B)(A−B)=A2−AB+BA−B2 は成り立ちますが,交換法則が成り立たないので,−AB+BA=0とは限らず,この式がA2−B2に等しいとは限りません. ただし,絶対成り立たない訳ではなく,A,Bをうまく選べば(各々が対角行列の場合など)成り立つ場合があります.⇒「成り立つとは限らない」 |
(6) (A+E)2=A2+2A+E は |
ある行列Aとそのべき乗Anおよび単位行列Eや零行列0とはつねに交換可能です.この問題では, (A+E)2=(A+E)(A+E)=A2+AE+EA+E2=A2+2A+E はつねに成り立ちます.⇒「つねに成り立つ」 |