==ラプラス変換の基本==
【1. はじめに】
ラプラス変換とは何かということを,数式を使って正確に定義してみても,初めてそれを学ぶ人にはそもそもどのようなものなのかというイメージがないので,伝わらない.ここでは,具体例でイメージをつかんでもらって,簡単な作業ができるところまでを目指します.(あまり高度な内容は扱いません).を変数とする関数が与えられたとき,これに対して次のような定積分で定義される関数を考える. このような変換は,を核とする積分変換と呼ばれる. 積分変換の例として,フーリエ変換やラプラス変換があるが,ここではラプラス変換を扱う. ラプラス変換では,核として,「微積分でとてもよい働きをする」指数関数を使う.これにより,n回微分方程式がn次方程式に書き換えられる. この教材では,ラプラス変換の具体例とそれを利用して微分方程式を解くところまでを扱う. おそらく,この教材を眺めているだけでは身に着かないので,鉛筆を持って簡単な問題を幾つか解くことが習得のための秘訣ですのでよろしく. |
【2. ラプラス変換とは】
を変数とする関数が与えられたとき,これに対して次のような定積分で定義される関数を考えて,のラプラス変換という.
元の関数がを変数とする関数で,変換後の関数がを変数とする関数とするとき,「入力変数を,出力変数をとする」などと言う.
【3. ラプラス変換で使われる記号】
関数のラプラス(Laplace)変換がであるとき,すなわちのとき と書く.(はラプラスの頭文字Lを筆記体で書いたもの) のラプラス変換を,のラプラス変換を,のラプラス変換をという書き方も使う. このとき,元の関数は独立変数,従属変数とも実数であるが,変換後の関数は独立変数,従属変数とも複素数で考える.(ただし,このページで取り上げる問題のレベルでは,複素数であることを意識しなくてもできる) に元の関数を対応させる変換は,ラプラス逆変換と呼ばれ と書く. |
【4. ラプラス変換を用いた微分方程式の解き方】
[簡単な図解でイメージ作り]
元の微分方程式
変換された方程式
解の方程式
変換された解
(注1) yやy',その他よく使う関数のラプラス変換は,あらかじめ一覧表にしておく. (注2) ラプラス逆変換も,個別に計算をすることはめったになく,あらかじめ作っておいた表の右欄から左欄を読むという使い方を考える. [最低限覚えるべき手順] (1)のラプラス変換は, (2)のラプラス変換は,
(証明)
(3)のラプラス変換は,のとき 次の部分積分を行う ラプラス変換は となる関数に対して定義される. もしそうでなければ は収束しないから また,次の式が成り立つ したがって (4)などよく使う関数のラプラス変換は,一覧表を見て使う. (*)ならばは言えるので,表を逆に読めば元の関数が分かる. |
なぜ,を掛けるのかについての,だいたいの説明.
ラプラス変換 が収束するためには,この被積分関数の極限値が0でなければならない. もしそうでなければ,たとえば正の値に収束するのならば,十分大きなの値に対して,被積分関数は,ほぼに等しいから,上記の積分はよりも大きくなって,収束しない.被積分関数が負の値に収束するときも,同様にして積分は負の無限大となり,収束しない. 結局,ラプラス変換が収束するためには,被積分関数の極限値が0になることが必要条件である. 微積分でとてもよい働きをするのが指数関数であるが,たとえばのような簡単な関数を考えてみると,としてを使うと は発散してしまう.指数関数の内で,のとき,0に収束するのはである. また,この関数はのとき,急速に大きくなるから,ラプラス変換を収束させるためには,積分区間としての区間だけを使う. 結局,の区間でラプラス変換の積分を収束させるために,急速に0に収束する関数を使っていると解釈できる.
【用語】 収束座標
ならばラプラス変換が収束し,ならば収束しないとき,を「収束座標」という. 正確に言えば,として複素数を考えるので,はその実部であるが,ここでは初めから実数を考えればよい. 【5. よく使うラプラス変換とその証明】
(1)(収束座標は0)
次の部分積分を行う のとき, のとき, だから,このラプラス変換が収束するにはが条件になる.このとき 次々に,この部分積分を繰り返すと この式は,のとき収束する 次の部分積分を行う ここで,のとき,だから, さらに,次の部分積分を行う ここで, だから 証明は(3)とほぼ同様[略] |
(6)推移則[シフト公式]
のときとする
のとき…(6.1)
入力関数にを掛けると,出力関数はの正の向きにだけシフト[平行移動]される
…(6.2)
入力関数をの正の向きにだけシフト[平行移動]させると,出力関数はだけ掛けたものになる
(証明)のとき だから,(6.1)が成り立つ. のときだから,上記の積分はの部分だけ行えばよい. よって,(6.2)が成り立つ. 上記の推移則[シフト公式](6.1)を使うと,各々の公式が次のように関連していることが分かる. (1)→(3) …(1) だから …(3) (2)→(*3) (*3)は後出 …(2) だから …(*3) (4)→(*1) (*1)は後出 …(4) だから …(*1) (5)→(*2) (*2)は後出 …(4) だから …(*2) |
【6. ラプラス変換表】
(入力変数を,出力変数をとする)*** 多項式 ***
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【7. ラプラス変換の基本性質】
(1) 線形性
(証明)
(2) 自己相似性 (のとき)
(証明)
に対してとおいて置換積分を行うと |
【例1】
(解答)次の関数のラプラス変換を求めてください.ただし,出力変数はとする. (1) (2) (3) (1)ラプラス変換の線形性により,次のように分けられる. 次に,ラプラス変換表から だから …(答) (2)ラプラス変換の線形性により,次のように分けられる. 次に,ラプラス変換表から だから …(答) (3)ラプラス変換の線形性により,次のように分けられる. 次に,ラプラス変換表から だから …(答) |
【例2】
(解答)次の関数のラプラス変換を求めてください.ただし,出力変数はとする. (1) (2) (3) (1) (*1)の公式にa=−2, b=3を代入する …(答) (2) (*3)の公式にa=−2, b=3を代入する …(答) (3) 積や累乗の形になっているとラプラス変換の線形性が利用できないので,半角公式を使って三角関数の1次式にしておく …(答) |
【例3】
(解答)次の関数のラプラス逆変換を求めてください.ただし,変数はとする. (1) (2) (3) (1) 部分分数に分解する (2) 部分分数に分解する (3) 部分分数に分解する とおいて定数を係数比較法によって定める. より この連立方程式を解くと |
線形な微分方程式(の積,累乗,商などを含まないもの)は,ラプラス変換を用いて解くことができます.特に,ラプラス変換を用いると,n階微分方程式をn次方程式に直して解くことができます.
【1階線形微分方程式】
(3.1)微分方程式
≪A:ラプラス変換による解き方≫初期条件 を満たすの関数を求めてください. 両辺をラプラス変換する だから
だから
右辺を部分分数に分解する.
とおいて,両辺の係数を比較すると …(答) ≪B:1階線形微分方程式の筆算による解き方≫
同次方程式の1つの解をとするとき,
同次方程式の一般解は この公式を使う を解く 非同次方程式の1つの特別解は,とおけるから,元の微分方程式の一般解は 次の部分積分を行う だから …(答) ≪C:フリーソフトwxMaximaによる解き方≫ メニューをたどって,「方程式」→「微分方程式を解く」
siki1:ode2('diff(y,x)-y=2*x, y, x);
…(答)のように方程式に名前を付けておく y=(2*(-x-1)*%e^(-x)+%c)*%e^x という形で一般解が得られる ic1(siki1,x=0,y=0); という形で初期条件を入れる y=2*%e^x-2*x-2 が返される |
(3.2)微分方程式
≪A:ラプラス変換による解き方≫初期条件 を満たすの関数を求めてください. 両辺をラプラス変換する だから
だから
右辺を部分分数に分解する …(答) ≪B:1階線形微分方程式の筆算による解き方≫ 同次方程式 を解く 非同次方程式の1つの特別解を求める.右辺の形からと仮定してAを求める. したがって,非同次方程式の1つの特別解は 元の微分方程式の一般解は 初期条件を入れると 結局,求める方程式は …(答) ≪C:フリーソフトwxMaximaによる解き方≫ メニューをたどって,「方程式」→「微分方程式を解く」
siki1:ode2('diff(y,x)-y=2*exp(3*x), y, x);
…(答)のように方程式に名前を付けておく という形で一般解が得られる ic1(siki1,x=0,y=1); という形で初期条件を入れる が返される |
【2階線形微分方程式】
(3.3)微分方程式
≪A:ラプラス変換による解き方≫初期条件 を満たすの関数を求めてください. 両辺をラプラス変換する を使う 初期条件を入れると
右辺を部分分数に分解する.
とおいて,両辺の係数を比較すると 5次: 4次: 3次: 2次: 定数項: 求まるものから順に求めると …(答) ≪B:2階線形微分方程式の筆算による解き方≫
非同次方程式の特殊解に,
非同次方程式の1つの特殊解は,同次方程式の一般解を加えると 非同次方程式の一般解が得られる (とおいて,となるA, Bを求めたらよい) 同次方程式 の特性方程式は異なる2つの実数解を持つから,同次方程式の一般解は 元の微分方程式の一般解は により …(答) ≪C:フリーソフトwxMaximaによる解き方≫ メニューをたどって,「方程式」→「微分方程式を解く」
siki1:ode2('diff(y,x,2)-y=sin(x)+x, y, x);
のように方程式に名前を付けておく ※2階導関数を表現するには,'diff(y,x,2)とするとよい という形で一般解が得られる ic2(siki1,x=0,y=0,'diff(y,x)=0); という形で初期条件を入れる (2階微分方程式で初期条件に対応する特殊解を求めるには…initial value problems for 2nd order differential equations・・・ic2( )関数が使える.y'=0という条件は,'diff(y,x)=0で書く・・・先頭のアポストロフィーに注意) …(答) |
(3.4)微分方程式
≪A:ラプラス変換による解き方≫初期条件 を満たすの関数を求めてください. 両辺をラプラス変換する を使う 初期条件を入れると
右辺を部分分数に分解する.
とおいて,両辺の係数を比較すると 3次: 2次: 1次: 定数項: この連立方程式を解くと …(答) ≪B:2階線形微分方程式の筆算による解き方≫
非同次方程式の特殊解に,
非同次方程式の1つの特殊解は,同次方程式の一般解を加えると 非同次方程式の一般解が得られる (とおいて,となるA, Bを求めたらよい) 同次方程式 の特性方程式は異なる2つの実数解を持つから,同次方程式の一般解は 元の微分方程式の一般解は により …(答) ≪C:フリーソフトwxMaximaによる解き方≫ メニューをたどって,「方程式」→「微分方程式を解く」
siki1:ode2('diff(y,x,2)-3*'diff(y,x,1)+2*y
=2*cos(x), y, x); のように方程式に名前を付けておく ※2階導関数を表現するには,'diff(y,x,2)とするとよい という形で一般解が得られる ic2(siki1,x=0,y=1,'diff(y,x)=1); という形で初期条件を入れる (2階微分方程式で初期条件に対応する特殊解を求めるには…initial value problems for 2nd order differential equations・・・ic2( )関数が使える.y'=1という条件は,'diff(y,x)=1で書く・・・先頭のアポストロフィーに注意) …(答) |
(3.5)微分方程式
≪A:ラプラス変換による解き方≫初期条件 を満たすの関数を求めてください. 両辺をラプラス変換する 初期条件を入れると
右辺を部分分数に分解する.
とおいて,両辺の係数を比較し,連立方程式を解くと
ここで,次のラプラス変換公式を使う
…(A) …(B) …(答) ≪B:2階線形微分方程式の筆算による解き方≫ 非同次方程式の1つの特殊解は, (とおいて,となるA, B, Cを求めたらよい) 同次方程式 の特性方程式は異なる2つの虚数解を持つから,同次方程式の一般解は 元の微分方程式の一般解は により により …(答) ≪C:フリーソフトwxMaximaによる解き方≫ メニューをたどって,「方程式」→「微分方程式を解く」
siki1:ode2('diff(y,x,2)+2*'diff(y,x,1)+4*y
=2*x^2, y, x); のように方程式に名前を付けておく ※2階導関数を表現するには,'diff(y,x,2)とするとよい という形で一般解が得られる ic2(siki1,x=0,y=0,'diff(y,x)=0); という形で初期条件を入れる (2階微分方程式で初期条件に対応する特殊解を求めるには…initial value problems for 2nd order differential equations・・・ic2( )関数が使える.y'=0という条件は,'diff(y,x)=0で書く・・・先頭のアポストロフィーに注意) …(答) |
推移則[シフト公式]の補足問題 次の図で示された関数のラプラス変換を求めよ.
(1) 矩形波
(解答)… ラプラス変換の定義に当てはめる{ }内は,公比の等比級数だから,すなわちのとき収束する. (別解)… 推移則[シフト公式](6.2)を使う に対して,2つの目の矩形はtの正の向きに2aだけ平行移動したものだから,積分は第1項にを掛けると求められる. 以下,次々にを掛けるとよいから,公比の等比級数の和を求めるとよい.
(2) 鋸波
(別解)… 推移則[シフト公式](6.2)を使う2つの目の鋸形はtの正の向きにaだけ平行移動したものだから,積分は第1項にを掛けると求められる. 以下同様にして,公比の等比級数の和を求めるとよいから |
(3) 矩形波
(別解)… 推移則[シフト公式](6.2)を使う次々に周期の分だけ平行移動すればよいから,全体では公比の等比級数の和を求めるとよい …(答) ※この形でもよいが,双曲線関数を用いて簡単に表すこともできる. …(答) |
(4) 三角波
(別解)… 推移則[シフト公式](6.2)を使う(途中経過略) 次々に周期の分だけ平行移動すればよいから,全体では公比の等比級数の和を求めるとよい …(答) 前問(3)と同様に,この答も双曲線関数を使って表せる. …(答) |