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※高校数学Bの「空間ベクトル・空間図形」について,このサイトには次の教材があります.
この頁へGoogleやYAHOO ! などの検索から直接来てしまったので「前提となっている内容が分からない」という場合や「この頁は分かったがもっと応用問題を見たい」という場合は,他の頁を見てください.  が現在地です.
空間座標と空間ベクトル(1)-現在地
空間座標と空間ベクトル(2)
空間における直線の方程式
空間における平面の方程式
空間における平面と直線の方程式

== 空間ベクトル ==

【空間の座標】


-図1-
(3次元)空間において,原点Oで互いに垂直に交わる3つの数直線を描き,それぞれxyzという.これらをまとめて座標軸という.
 xyを含む平面をxy平面yzを含む平面をyz平面zxを含む平面をzx平面という.これらをまとめて座標平面という.
(疲労回復は雑談で1)
 原点を表す記号はアルファベット大文字のオーです.数字の0(れい)によく似ていますが,英語のOriginの頭文字だと思えばよい.x=0, y=0, z=0の3つを重ねると「太って」見える?実際,筆者が授業をしていた頃は,1−1の間に0を大きめに書いていた.手書きでは区別はつかない.
(疲労回復は雑談で2)
座標軸
x1150
x280
x3120
x490
 実生活で,空間と言えば3次元までに限られると考えていると,それは違う.ベクトルの成分表示が使えるようになると,4次元でも,5次元でも,一般にn次元空間の点やベクトルは簡単に表せる.
(疲労回復は雑談で3)

-図2-
 x軸,y軸,z軸は,右手の①親指,②人差し指,③中指の順に対応するように描きます.(右手系と呼ばれる)
 右手系では,x軸の正の向きからy軸の正の向きに向かって右ネジを回したときに,ネジが進む方向がz軸の正の向きになります.
 高校の数学では,右手系だけを使う.


-図3-
 図3のようにPを1つの頂点とする直方体を描いて,x軸,y軸,z軸上の点A, B, Cx座標,y座標,z座標を各々a, b, cとするとき,点Pの座標をP(a, b, c)で表す.
 このとき,x軸上の点Aの座標はA(a, 0, 0)y軸上の点Bの座標はB(0, b, 0)z軸上の点Cの座標はC(0, 0, c)となって,残り2つの座標が0になる.
 また,xy平面上の点Dの座標はD(a, b, 0)yz平面上の点Eの座標はD(0, b, c)zx平面上の点Fの座標はF(a, 0, c)となって,残り1つの座標が0になる.

-図3-
【例1】
 点P(a, b, c)について,次の各点の座標を求めてください.
(1) xy平面に関して
Pと対称な点Q1の座標
(2) yz平面に関して
Pと対称な点Q2の座標
(3) zx平面に関して点Pと対称な点Q3の座標
(4) x軸に関して点Pと対称な点R1の座標
(5) y軸に関して点Pと対称な点R2の座標
(6) z軸に関して点Pと対称な点R3の座標
(7) 原点Oに関して点Pと対称な点Sの座標
(解答)
(1) Pからxy平面に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,赤丸で示した点になり,z座標の符号だけが変わるからQ1(a, b, −c)
(2) Pからyz平面に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,青丸で示した点になり,x座標の符号だけが変わるからQ2(−a, b, c)
(3) Pからzx平面に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,緑色の丸で示した点になり,y座標の符号だけが変わるからQ3(a, −b, c)
(4) Pからx軸に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,茶色の丸で示した点になり,y, z座標の符号が変わるからR1(a, −b, −c)
(5) Pからy軸に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,オレンジ色の丸で示した点になり,z, x座標の符号が変わるからR2(−a, b, −c)
(6) Pからz軸に垂線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,紫色の丸で示した点になり,x, y座標の符号が変わるからR3(−a, −b, c)
(7) Pから原点に線を引き,さらに同じ長さだけ反対側まで伸ばすと,灰色の丸で示した点になり,x, y, z座標の符号が変わるからS(−a, −b, −c)

【問題1】 次の各点の座標を求めてください.(選択肢の中から正しいものを1つクリック)
(1)
 点A(−2, 3, 4)に対して,xy平面に関して対称な点の座標
(2)
 点B(2, −3, 4)に対して,z軸に関して対称な点の座標

(3)
 点C(2, 3, −4)に対して,原点に関して対称な点の座標
(4)
 点D(2, 3, 4)x軸に関して対称移動してから,さらにxy平面に関して対称移動したときの点の座標

【2点間の距離の公式】

 2点A(x1,y1,z1),B(x2,y2,z2)間の距離は
AB=(x2x1)2+(y2y1)2+(z2z1)2
 特に,原点O(0, 0, 0)と点P(x, y, z)の間の距離は
OP=x2+y2+z2
(解説)
 右図のようにA,Bを対角線とする直方体を描くと,ピンク色の三角形はACD=90°の直角三角形になる.
 ここで,
AC=x2x1CD=y2y1だから(*注),三平方の定理により
AD2=(x2x1)2+(y2y1)2
 さらに,水色の三角形はADB=90°の直角三角形になるから,三平方の定理により
AB2=AD2+DB2
=(x2x1)2+(y2y1)2+(z2z1)2
 ABは距離だから,平方根のうちの正の方を選ぶと
AB=(x2x1)2+(y2y1)2+(z2z1)2…(証明終わり)
 次に,A(x1,y1,z1)の代わりに O(0, 0, 0)を, B(x2,y2,z2)の代わりに P(x, y, z)を使うと
OP=(x0)2+(y0)2+(z0)2
OP=x2+y2+z2…(証明終わり)∎∥
(疲労回復は雑談で4)
 この数十年間,(*注)のように書いてある高校の数学の教科書は1冊も見たことがない.教科書には必ず,AC=∣x2x1CD=∣y2y1と書いてある.それが正しいに決まっている.
 しかし,それをそのまま授業で教えようとすると,絶対値記号があるだけで半分以上の生徒の「目が点になって,目が泳ぎだして,頭が真っ白になって,頭の線がブチっと切れる音がして,この授業は聞くのをやめよう,公式だけ暗記することにしよう」という強い敵意を感じるようになる.
 そもそも教科書は「間違ったことを書いてはいけない」「無駄なく正確に書かなければならない」という使命を帯びているので,絶対値記号を付けざるを得ないのは当然である.しかし,これによって半分以上の生徒が理解できなくなったら,失うものが大き過ぎる.数学嫌いを生み出すために授業をやっているのではないのだ!
 上記のように書くとまずいのは,x2<x1y2<y1のとき符号がマイナスになるからであるが,|  |は理解できず
|  |2はさらに理解できないが,結局は2乗するので|  |という記号は何も残らない.だから,授業の中では「この式は負になることがあるが,2乗するので気にしない」と一言添えて,脱落者を減らすのが得策かなと…思う.
(疲労回復は雑談で5)
 誤解を恐れずにはっきり言えば,そもそも小中高で教えているのは,本物の数学そのものではなくて,児童生徒の心身の発達に応じて教育用に加工された教材で,消化不良を起こさないように離乳食を提供しているのと同様である.このページとの関係で言えば,100年以上も前から,ユークリッドの距離(x2x1)2+(y2y1)2+(z2z1)2は空間についての唯一の真理ではなく,距離空間の公理を満たす1つの定義の仕方に過ぎないとされている.
 もちろん,高校ではユークリッドの意味での距離が唯一の距離なのであるが,数学ではそうではない. もともと高校数学といっても,消化しやすく加工された作り物に過ぎないのであるから, 未練たらしく親学問の影を残して無理するのでなく,

子供の夢を壊していいのか?
必要に応じて「やらせ」はやらせとして割り切って,おいしい所を食べやすくした方がよいと思う.実際,高校数学の基本問題では,測量で使う小数点付きの問題はまず出さない.

【例2】
 次の2点間の距離を求めてください.
(1) A(1, 2, 3), B(3, 5, 9)
(2) C(−1, 2, 7), D(1, −2, 3)
(3) O(0, 0, 0), P(3, −4, 5)
(解答)
(1) AB=(31)2+(52)2+(93)2
=4+9+36=49=7…(答)
(2) CD=(1+1)2+(22)2+(37)2
=4+16+16=36=6…(答)
(3) OP=32+(4)2+52
=9+16+25=50=52…(答)

【問題2】 次の2点間の距離を求めてください.(選択肢の中から正しいものを1つクリック)
(1)
 点A(1,3,2),B(3,1,0)
4 5 6 7
(2)
 点O(0,0,0),P(3,4,5)
5 52 53 10

【三角形の形状問題】
 2点間の距離の公式に関連して,三角形の形状問題が出されることがある.これは,三角形ABCの頂点の座標が与えられたときに,その三角形がどのような形の三角形であるかを答えるもので,三辺AB, BC, CAの長さをあらかじめ計算しておき,次のどの型に当てはまるかを答える.
(1) AB=BCなどとなったとき
→ 「AB=BCの二等辺三角形」などと答える
単に「二等辺三角形」と答えた場合には,どの2組の辺が等しいかが書かれていないので,減点にするのが普通です
(2) AB=BC=CA=3などとなったとき
→ 「一辺の長さが3の正三角形」などと答える
単に「正三角形」と答えても様々な大きさがあるので,1辺の長さが分かる場合には,それを書くべきだと採点官は考えます
(3) AB2+BC2=CA2などとなったとき
→ 「B=90°の直角三角形」などと答える
 辺の長さだけを手掛かりに三角形の形状を求めるときに,直角という角度の性質を述べることができるのは,三平方の定理の逆から直角三角形が言える場合です.
 これに当てはまるかどうかは,2乗の和を試しに求めてみないと分かりません.
 単に「直角三角形」と答えるのではなく,どの角が直角かも述べなければなりません.(最長の辺=斜辺に登場しない頂点が直角です.もしくは,2乗の和に2回登場する頂点が直角です)
(4) AB2+BC2=CA2,AB=BCなどとなったとき
→ 「B=90°の直角二等辺三角形」などと答える
 直角三角形と二等辺三角形の両方が言える場合です.
 答え方としては,直角の角か二等辺の辺の組かいずれかも示すようにします
(※)三辺の長さのみを手掛かりにして三角形の形状を求める問題では,「A=120°の三角形」のような形の答えは出ないのが普通です.
 辺の長さだけを手掛かりにした場合に,初歩的に角度の性質が答えられるのは,三平方の定理の逆を使う直角三角形(90°)と三辺の長さが等しい場合の正三角形(60°)ぐらいのもので,それ以外は超応用問題になります.

【問題3】 次の3点を頂点とする三角形はどのような形の三角形か述べてください.(選択肢の中から正しいものを1つクリック)
(1)
 点A(1,2,3),B(2,3,1),C(3,1,2)
(2)
 点A(1,2,3),B(2,0,1),C(4,1,3)

(3)
 点A(1,3,1),B(1,1,2),C(3,6,2)
(4)
 点A(2,3,1),B(2,4,1),C(1,5,4)

【座標平面に平行な平面の方程式1】

 x軸と点(a, 0, 0)で交わり,yz平面に平行な平面の方程式は
x=a…(1)
 y軸と点(0, b, 0)で交わり,zx平面に平行な平面の方程式は
y=b…(2)
 z軸と点(0, 0, c)で交わり,xy平面に平行な平面の方程式は
z=c…(3)
(解説)
 中学校で習ったように,平面上でy軸に垂直(x軸に平行)な直線の方程式は,y=bの形で書かれます.
 例えば,y軸上の点(0, 4)を通り,y軸に垂直(x軸に平行)な直線の方程式は,y=4になります.
 同様にして,平面上でx軸に垂直(y軸に平行)な直線の方程式は,x=aの形で書かれます.
 例えば,x軸上の点(3, 0)を通り,x軸に垂直(y軸に平行)な直線の方程式は,x=3になります.
 これらの方程式は,普通に見慣れているy=2x+1のような直線の方程式とは少し違うように感じますが,y=4の方は,傾きが0なのでy=0x+4とも書けます.
 そもそも,y=4の直線上の点の座標は
(0, 4), (1, 4), (2, 4), ...のように,
xの値は何でもよい(xの値には制限がない)
y=4
を満たしています.直線の方程式というのは,その直線上にあるために変数x, yが満たすべき関係式,すなわち「制限」のことですが,数学では「制限のないものは書かなくもよい.書かない.」ことになっているので,この直線の方程式はy=4になります.
 同様にして,x軸上の点(3, 0)を通り,x軸に垂直(y軸に平行)な直線上の点の座標は
(3, 0), (3, 1), (3, 2), ...のように,
x=3
yの値は何でもよい(yの値には制限がない)
を満たしています.「制限のないものは書かなくもよい.書かない.」ので,この直線の方程式はx=3になります.


元の3次元空間に戻ると,例えばx軸上の点(3, 0, 0)を通り,x軸に垂直(yz平面に平行)な平面上の点の座標は
(3, 0, 0), (3, 1, 0), (3, 2, 0), ...
(3, 0, 1), (3, 1, 1), (3, 2, 1), ...
x=3
y, zの値は何でもよい(y, zの値には制限がない)
を満たしています.「制限のないものは書かなくもよい.書かない.」ので,この平面の方程式はx=3になります.
同様にして,例えばy軸上の点(0, 4, 0)を通り,y軸に垂直(yz平面に平行)な平面上の方程式はy=4になります.
また,z軸上の点(0, 0, 5)を通り,z軸に垂直(xy平面に平行)な平面上の方程式はz=5になります.


 ※座標軸に,「串かつが刺してある」ときの軸の座標を書けばよいね!
【座標平面に平行な平面の方程式2】
P(a, b, c)を通り,
yz平面に平行な平面の方程式は
x=a…(1)
zx平面に平行な平面の方程式は
y=b…(2)
xy平面に平行な平面の方程式は
z=c…(3)
(解説)
 点P(a, b, c)を通り,yz平面,zx平面,xy平面に平行な平面は,座標軸と各々点(a, 0, 0), (0, b, 0), (0, 0, c)で交わるから,【座標平面に平行な平面の方程式1】で述べた公式が使える.

【問題4】 次の平面の方程式を求めてください(選択肢の中から正しいものを1つクリック)
(1)
 点A(3, 4, 5)を通り,y軸に垂直な平面の方程式
(2)
 点B(−5, 6, −4)を通り,xy平面に平行な平面の方程式

【空間のベクトル】

平面の場合と同様に,3次元空間においても「図形的に矢印を用いて」ベクトルを導入することができる.またベクトルを「成分を使って」表すこともできる.
矢印を使って図形的に考えるベクトル
• 平面の場合と同様に,空間においても始点Aから終点Bに向かうベクトルをABで表す.
• ベクトルを1つの名前でaのように書くこともできる.
• ベクトルの長さ(大きさ)は,絶対値記号を使ってAB,aのように表す.
右図の例では,
OA∣=3
OB∣=4
OC∣=5
• 2つのベクトルa,b が同じ向きで大きさが等しいとき,a=b と書く.また,ベクトルa と大きさが等しくて向きが逆のベクトルを,ベクトルa の逆ベクトルといい,aで表す.
右図の例では,
BD=OA
EB=OC
ベクトルの和は,平面のときと同様に(1)「平行四辺形の対角線」または(2)「三角形の2辺の和」の考え方で求めることができる.
(1) 2つのベクトルの「始点をそろえて描く」と,平行四辺形の対角線がそれらの和を表す.
(2) aの終点にbの始点を「接ぎ木」のようにつなぐと,三角形の第3の辺がそれらの和を表す.
※一般に,(2)の考え方の方が3個以上のベクトルの和を一度に描ける点が,有利だと考えられる.
 また,(2)の考え方は,2点を結ぶベクトルの和について,

AB+BC=AC

AB+BC+CD=AD
という公式を作る上でも考えやすい.

【例3】
 BA=ABなどの変形を利用して次の式を簡単にしてください.
(1) CD+BACA
(2) QRSRQP+SP
(解答)
(1) CD+BACA=CD+BA+AC
しりとりになるように並べ替える
BA+AC+CD=BD
(2) QRSRQP+SP=QR+RS+PQ+SP
しりとりになるように並べ替える
QR+RS+PQ+SP=QR+RS+SP+PQ
=QQ=0

【ベクトルの1次独立とベクトルの分解】
【ベクトルの1次独立の定義】
 零ベクトルでない3つのベクトルa,b,cが,
sa+tb+uc=0s=t=u=0…(1)
を満たすとき,これらのベクトルa,b,c1次独立であるという.
 1次独立でないとき,ベクトルa,b,c1次従属であるという.
(解説)
 1次従属であるとき,c=pa+qbのように,あるベクトルが他の2つのベクトルの1次結合(定数倍の和)で表すことができる.この場合,3つのベクトルは同一平面内にある.
 これに対して,1次独立は,x軸上にay軸上にbz軸上にcがある場合のように,3つのベクトルが同一平面上にない.
 1次独立の定義のうちで,←すなわち,
sa+tb+uc=0s=t=u=0
は自明である(0+0+0=0だから)
 重要なのは,→すなわち,
sa+tb+uc=0s=t=u=0
の部分で,1次結合が0 になるのは,s=t=u=0の場合に限るということ
 例えば,s≠0ならば
a=tsbusc
と書けるから,1次従属になる.したがって,1次独立であるためには,s=0でなければならない.同様にして,t=u=0も示される.

【1次独立なベクトルによるベクトルの分解】
 ベクトルa,b,cが1次独立であるとき,3次元空間の任意のベクトルp
p=sa+tb+uc…(2)
の形にただ1通りに表すことができる.
(このとき,この式をa,b,cによるpの分解という)
(解説)
OP=pの点Pから a,b,cに平行な直線を引き,図のような平行6面体を描くと,
p=sa+tb+uc
とすることができる.
(このとき,定数s, t, uがただ1通りに定まることは,次のように示せる)
p=sa+tb+uc
p=sa+tb+uc
が成り立つとすれば
(ss)a+(tt)b+(uu)c=0
ここで(1)の1次独立の定義により,(ss)=(tt)=(uu)=0が言えるから
s=s,t=t,u=u
が成り立つ.したがって,ただ1通りになる.

【例4】
 右図のような平行6面体ABCD-EFGHがあるとき,1次独立な3つのベクトル
CA=a,CF=b,CH=c
を用いて,
CB=p,CG=q,CD=r
をそれぞれ表してください.
(解答)
平行四辺形の対角線が表すベクトルは,2辺が表すベクトルの和になるから
p+r=a…(1)
p+q=b…(2)
q+r=c…(3)
(1)+(2)−(3)より
2p=a+bc
p=a+bc2
同様にして
q=b+ca2
r=c+ab2
※図形的に描かれたベクトルを用いて,ベクトルの分解を求める問題は,教科書や問題集でほとんど見かけない.ベクトルの分解の問題は,むしろ,ベクトルの成分表示に関連して出題されることが多い.
 例えば,ベクトルp=(6,3,5)を1次独立な3つのベクトル a=(1,2,1)b=(2,1,3)c=(1,3,0)で表すとき,
p=sa+tb+uc
となる係数s, t, uを求める問題がこれに当たる.この問題は,連立方程式の解き方の問題となるが,ベクトルの成分表示の項で扱う.

【ベクトルの成分表示】

【基本ベクトル表示】
x軸,y軸,z軸の正の向きを向いた単位ベクトル(大きさ1のベクトル)e1,e2,e3基本ベクトルという.
Aの座標が(a1,a2,a3)であるとき
a=OA=a1e1+a2e2+a3e3
aの「基本ベクトル表示」といい
 基本ベクトルe1,e2,e3の係数 a1,a2,a3aの成分といい,
a=(a1,a2,a3)
をベクトルaの「成分表示」という.
【基本ベクトル表示】
OA=a1e1+a2e2+a3e3
【成分表示】
a=(a1,a2,a3)
(注1) 普通の授業では,基本ベクトル表示はこの一瞬だけ現れて,二度と登場しない.成分表示を定義するために必要であるが,以後の計算などはすべて成分表示で行う.
(注2)

偽物の記号を作ってはダメだ!
a1e1+a2e2+a3e3基本ベクトル表示
(a1,a2,a3)成分表示
(a1e1,a2e2,a3e3)←こんなものはない!
 そもそも,a1e1a2e2a3e3も 1つずつが3次元ベクトルなので,それらの和や差も3次元ベクトルを表す.
 これに対して,a1,a2,a3は単なる1つの数字で,3つ集めて(a1,a2,a3)の形で3次元ベクトルを表す.
 こんな物を書いたら→(a1e1,a2e2,a3e3) 9次元になってしまう!
(注3)
 単位ベクトル(大きさが1のベクトル)は無数にあるが,基本ベクトルは3個だけ.
 右の図では,平面ベクトルの場合を描いているが,3次元空間ではこれが立体になる.
「単位ベクトル」は,造り酒屋の杉玉のように向きが異なる長さが1の矢印で,無限個あるが,「基本ベクトル」は座標軸の正の向きを向いたもので3個しかない.

【ベクトルの成分表示の例】
基本ベクトルを成分表示にすると,各々
e1=(1,0,0)
e2=(0,1,0)
e3=(0,0,1)
右図のベクトルは
OA=(2,0,3)
OB=(2,4,0)
OC=(0,4,3)
OP=(2,4,3)

【空間ベクトルの成分計算】
 空間ベクトルの相等,ベクトルの和,差,実数倍についての計算は,z成分が追加されるだけで,内容的には平面ベクトルの場合と同じになる.
a=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3)のとき
■ベクトルの相等
a=b a1=b1
a2=b2
a3=b3
■ベクトルの和
a+b=(a1+b1,a2+b2,a3+b3)
■ベクトルの差
ab=(a1b1,a2b2,a3b3)
■ベクトルの実数倍
ta=(ta1,ta2,ta3)
■ベクトルの1次結合
sa+tb=(sa1+tb1,sa2+tb2,sa3+tb3)

【例3】
a=(1,2,0),b=(3,0,4)のとき,次のベクトルの成分を求めてください.
(1)a+b
(2)ab
(3)2a3b
(解答)
(1)a+b=(2,2,4)
(2)ab=(4,2,4)
(3)2a3b=(2,4,0)(9,0,12)
=(11,4,12)

【2点を結ぶベクトル】


A(a1,a2,a3),B(b1,b2,b3)のとき,
AB=(b1a1,b2a2,b3a3)
AB∣=(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
ABの矢印の向きに引きずられて, Aの座標から Bの座標を引く間違いが多いので要注意です.
AB=(a1b1,a2b2,a3b3)←これは違う!
※2点を結ぶベクトルの大きさ
AB∣=(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
と2点間の距離
AB=(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
とは同じものです.
 すなわち,AB∣=AB

【例4】
A(3,2,1),B(4,0,2)のとき, AB,ABを求めてください.
(解答)
AB=(43,0(2),21)=(1,2,3)
AB∣=1+4+9=14

【空間ベクトルの内積】

 2つのベクトルa,bのなす角を θ (0°≦θ≦180°)とするとき,ベクトル a,bの内積 ab
ab=∣abcosθ…(1)
で定義する.
 a=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3)のとき
(2) ab=a1b1+a2b2+a3b3
(3) cosθ=abab =a1b1+a2b2+a3b3a12+a22+a32b12+b22+b32
が成り立つ.
 高校の教科書での取り扱いと同様に,ここでは(1)を内積の定義として,(2)を性質とする.[(2)を定義として(1)が成り立つことを証明することもできる.(1)はベクトルを矢印を用いて図形的に考えるときに適しており,(2)は成分表示に対応している]
a1
品目a
単価
b
個数
りんごa1
150
b1
2
かきa2
200
b2
3
みかんa3
80
b3
5
なしa4
120
b4
4
 (1)を定義として導入する方法では,なぜそのように定義するのか,なぜcosθを使うのかについて納得のいく説明がないまま「頭ごなし」に「覚えなさい」と言う他ない…高校2年生では,まだ力積とか仕事を習っていないことが多い.また,文系の生徒の場合は,そもそも物理を選択しないから,(1)の定義が必要な場面を考えにくい.
 (2)を定義とする方法なら,小学生が買い物をする場面でも使う平易な計算になる.すなわち,単価×個数を足したものが内積で,合計金額を表す.(また,4次元でも品目が4種類になっただけだから,平気で扱える.)

(1)をベクトル内積の定義とする立場に立てば,その証明はできない.使い方の説明をするだけになる.
【例5】
(1) 基本ベクトルe1,e2,e3について,次の内積を求めてください.
1) e1e1
2) e2e2
3) e3e3
4) e1e2
5) e2e3
(2) 右図のベクトルa,bの内積abを求めてください.
(解答)
(1) 1) e1∣=1,θ=0だから
e1e1=1×1×cos0=1
2)3) 同様にして
e2e2=1×1×cos0=1
e3e3=1×1×cos0=1
4) e1∣=1,e2∣=1,θ=90だから
e1e2=1×1×cos90=0
5) 同様にして
e2e3=1×1×cos90=0
基本ベクトルem,en(1m,n3)は,
同一物との内積が1 → enen=1
異なる物との内積が0 → emen=0(mn)
になる
*** 表1 ***
内積e1e2e3
e1100
e2010
e3001
※この表1は,後に使う.
(2) a,b,cはいずれも1辺の長さが1の正方形の対角線にあるから,長さ(大きさ)は2
 正三角形だからa,bのなす角は60°
ab=2×2×cos60=1
(注意1)
 ベクトルの内積は1つの数です.1つの空間ベクトルは3次元ですが,その3次元ベクトル2個の積が1つの数になります.ベクトルになるのではありません.
(注意2)
 同じベクトル2つの内積はaa,bb,e1e1のように(ドット[中黒]で表される積の形で)書かなければなりません.
a2,b2,e12
などと書いてはいけません.
 高校数学ではベクトルの内積までしか登場しませんが,大学ではベクトルの外積というのがあって,a×a,b×b,e1×e1という記号で表す.内積とは異なり外積はベクトルになります.
 a2,a3のような記号を勝手に作ると,そもそも何を表しているのか意味不明になります.
 これに対して,a,b,e1のようなものは1つの数なので,2乗でも3乗でもできます.
これはあり!→aa,bb,e1e1
これはあり!→a2,b2,e12
これはない!→a2,a3,b2,b3

 空間ベクトルの内積の定義ab=∣a∣∣bcosθにおいて, θが分かる→ cosθが分かる→ a∣∣bcosθが求まるという場合が多いが, θcosθが分からなくても a∣∣bcosθが求まる場合もある.
 例えば,右図においてθは必ずしも明らかではないが,
a∣=3bcosθ=3だから
ab=∣a∣∣bcosθ =3×3=9
になる.
【例6】
 右図の直方体ABCD-EFGHにおいて,次の内積を求めてください.
(1)DADC
(2)HAHE
(3)ABEG
(4)ACAF

(解答)
(1) DADCのなす角は90°だから
DADC=3×4×cos90=0…(答)
HEに沿ってx軸を,HGに沿ってy軸を,HDに沿ってz軸を導入し,成分で計算する場合(以下同様)
DA=(3,0,0),DC=(0,4,0)だから
DADC=3×0+0×4+0×0=0…(答)
(2) HE∣=3HAcosθ=3だから
HAHE=3×3=9…(答)
成分で計算する場合
HA=(3,0,5),HE=(3,0,0)だから
HAHE=3×3+0×0+5×0=9…(答)
(3) AB=EFEF∣=4EGcosθ=4だから
ABEG=4×4=16…(答)
成分で計算する場合
AB=(0,4,0),EG=(3,4,0)だから
ABEG=0×(3)+4×4+0×0=16…(答)
(4) 図形で計算する方法は,結構大変!(以下の通り)
三平方の定理を使って,3辺AC,AF,FCの長さを求めるとAC=5,AF=41,FC=34
余弦定理により
cosCAF=AC2+AF2CF22AC×AF
AC×AF×cosCAF=AC2+AF2CF22
=25+41342=16…(答)
成分で計算する場合
AC=(3,4,0),AF=(0,4,5)だから
ACAF=3×0+4×4+0×(5)=16…(答)

a=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3)のとき
ab=∣a∣∣bcosθ…(1)
を定義として
ab=a1b1+a2b2+a3b3…(2)
を証明する方法
(教科書などに書かれている証明)
 教科書では,右図の三角形OABについて「余弦定理」を用いて,3辺の長さについて成り立つ関係から証明することが多い.
 余弦定理とは,△ABCについて
a2=b2+c22abcosA
などが成り立つことをいう.
 右図の△ABCでは,
ba2
=∣a2+b22a∣∣bcosA
=∣a2+b22ab ←(1)より
これを成分で表す
a=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3)だから
ba=(b1a1,b2a2,b3a3)
ba2=(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
a∣=a12+a22+a32
b∣=b12+b22+b32
これらを代入すると
(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
=a12+a22+a32+b12+b22+b322ab
2(a1b1+a2b2+a3b3)=2ab
ゆえに
ab=a1b1+a2b2+a3b3 (証明終わり)
※ほとんどの生徒は,この証明を嫌がる.全然分からないから!そこで,筆者は次の証明の方を好む.

(基本ベクトル表示を使う証明)
a=a1e1+a2e2+a3e3
b=b1e1+b2e2+b3e3
だから
ab=(a1e1+a2e2+a3e3)(b1e1+b2e2+b3e3)
=a1b1e1e1+a1b2e1e2+a1b3e1e3
+a2b1e2e1+a2b2e2e2+a2b3e2e3
+a3b1e3e1+a3b2e3e2+a3b3e3e3
ここで表1を思い出すと,
内積e1e2e3
e1100
e2010
e3001
各々の基本ベクトルの内積は右の値になるから
ab=a1b1+a2b2+a3b3
(証明終わり)

ab=a1b1+a2b2+a3b3のとき
(3) cosθ=a1b1+a2b2+a3b3a12+a22+a32b12+b22+b32
を証明する方法
ab=∣a∣∣bcosθ
だから
cosθ=aba∣∣b =a1b1+a2b2+a3b3a12+a22+a32b12+b22+b32
(証明終わり)
 この公式は,a,b0である2つのベクトルの成分が与えられたとき,cosθの値までは数字として求められるということを示している(三角関数表があればθも求められる).
 例えば,a=(1,2,3),b=(3,2,1)のとき
cosθ=21414=17=0.1428..
三角関数表を見ればθは約82°

【例7】
 次の2つのベクトルの内積となす角θを求めてください.
(1)a=(3,2,3),b=(2,3,4)
(2)c=(3,2,1),d=(2,1,3)
(3)e=(1,1,0),f=(0,1,1)
(解答)
(1)ab=6+612=0
cosθ=0だからθ=90°
(2)cd=62+3=7
cosθ=71414=12
θ=60°
(3)ef=01+0=1
cosθ=122=12
θ=120°

【ベクトルの平行条件,垂直条件】

 空間において0でない2つのベクトルa=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3)
(Ⅰ) 平行となる条件は,次の(1)(2)(3)のいずれかが成り立つこと
b=taとなる実数tが存在すること…(1)
b1a1=b2a2=b3a3…(2)
(ただし,分母が0のときは分子も0とする)
ab=±a∣∣b…(3)
(Ⅱ) 垂直となる条件は,次の(4)(5)のいずれかが成り立つこと
ab=0…(4)
a1b1+a2b2+a3b3=0…(5)
※(1)と(4)は重要.他のものは覚えなくてもよい.
(解説)
(1) baと同じ向きに平行である場合, aを正の倍率で拡大(または縮小)すれば bと一致するはずであり,逆向きに平行である場合, aを負の倍率で拡大(または縮小)すれば bと一致するはずだから,
b=ta
となる実数tが存在すれば,2つのベクトルは平行だと言える.また,平行ならばこのような実数tが定まる.

【例8】
 次の2つのベクトルa,bが平行となるように定数x, yの値を定めてください.
a=(3,2,1),b=(x,y,2)
(解答)
(x,y,2)=t(3,2,1)
x=3t
y=−2t
2=t
この連立方程式を解くと,x=6, y=−4…(答)
(2)の解説
(1)の結果を使うと,2つのベクトルa,bが平行となるには
(b1,b2,b3)=t(a1,a2,a3)
この式は
b1a1=b2a2=b3a3=t
と書ける.ただし,分母が0のときは分子も0を表すものとする.
(2)式は(1)式から直ちに作ることができるから,覚えるほどのものではない.
また,分母や分子が0になるとき,当惑することがあるので,有利な公式とは言い難い.
(3)の解説
ab=∣a∣∣bcosθ
であるから,2つのベクトルが同じ向きに平行ならば
θ=0cosθ=1ab=∣a∣∣b
逆向きに平行ならば
θ=180cosθ=1ab=a∣∣b
(3)式はaなどが根号計算になりa12+a22+a32煩わしい.
(3)を使わなければ解けないような問題は,めったにない

(4)の解説
空間において0でない2つのベクトルa,bについて
ab=∣a∣∣bcosθ=0
が成り立つとき,
仮定によりa∣≠0,b∣≠0だから
cosθ=0
したがって
θ=90°
逆も成り立つことは明らか.
 高校では,零ベクトル0の「向き」は考えないことにしているので,零ベクトル0はどんなベクトルとも垂直にならないと考える.
 大学では,零ベクトル0の場合も含めて, ab=0 が成り立つときに2つのベクトルは垂直と定義するので,零ベクトル 0はすべてのベクトルと垂直になる.
 数年で手のひらを返されるが,ab=0が成り立つことを重宝するということらしい
(5)は(4)を成分で書いたもの

【例9】
(1) a∣=∣b∣≠0a,bが平行でないとき, a+babは垂直になることを示してください.
(2) 2つのベクトルa=(1,2,3),b=(x,1,1)が垂直になるように定数xの値を定めてください.
(3) 2つのベクトルa=(1,1,0),b=(0,1,1)の両方に垂直な単位ベクトルを求めてください.
(解答)
(1) (a+b)(ab)=aabb
=∣a2b2
ここで,仮定によりa∣=∣bだから
(a+b)(ab)=0
また,a,bは零ベクトルでなく,平行でもないから, a+b0かつ ab0
高校の答案で,垂直であることを言うためには,内積が0になることだけでなく,各々が零ベクトルでないことを書く必要がある
以上から,(a+b)(ab)
(2) ab=x23=0
x=5…(答)
(3) 求めるベクトルをc=(x,y,z)とおくと
caより
x+y=0
cbより
y+z=0
c2=1より
x2+y2+z2=1
この連立方程式を解く
c=±(33,33,33)…(答)


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