(2) 成分による定義
2つのn次元ベクトル,の内積は,の任意の次元で定義することができこの定義は,シグマ記号を用いて次のように書いてもよい
【例1.2.1】
2次元ベクトルについて,の内積は
【例1.2.2】
3次元ベクトルについて,の内積は |
【例1.2.3】
4次元ベクトルについて,の内積は
※ベクトルの内積は,スカラー積とも呼ばれ,2つのベクトルの積が単なる1つの数(スカラー)になります.すなわち,ベクトルの内積はベクトルにならないことに注意
例えば,上の【例2.1】では,2次元×2の合計4個の成分からできる内積は1つの数11です. 【例2.2】では,3次元×2の合計6個の成分からできる内積は1つの数−4です. 【例2.3】では,4次元×2の合計8個の成分からできる内積は1つの数−2です. |
(3) ベクトル内積の性質
ベクトルの内積は次の性質を満たす.@) [対称性] A) [双線形性] 第1変数について線形 第2変数について線形 B) [正定値性] (等号成立はのときに限る) |
(解説) これらの性質は,ベクトルの成分による定義を用いれば簡単に示すことができる. @)← A)以下も同様にして示される B) に関連して,ベクトルの大きさ(長さ,絶対値,ノルム)は内積を用いて次のように表される |
(2) 成分による定義
のとき,(解説) ※これは定義であるから,証明する必要はないが,定義自体が覚えにくいので,基本ベクトルと結びつけると楽に理解できる
そこで,展開公式 およびを用いて,
※この展開公式が成立することは,後で示す.
を展開すると |
行列式が使える人は,次の形で覚えてもよい.
【例2.2.1】
1) とするとき,次の外積を計算してください. 1) 2) 2) |
(3) ベクトル外積の性質
ベクトルの外積は次の性質を満たす.@) A) B) kが実数のとき C) 内積との関係(1) |
D)内積との関係(2)…スカラー三重積 E) 内積との関係(3)…ベクトル三重積 F) のなす角をθとするとき |
(解説) @)← 図による定義から解説すれば,の向きからの向きへ回転するのと,の向きからの向きへ回転するのとでは,右ネジの進む向きが逆だから,符号が逆になることが分かる. 次に,ベクトルの大きさは,2つのベクトルで作られる平行四辺形の面積に等しいから,大きさは等しい. したがって,が成り立つ |
成分による定義から解説すれば, 行列式で覚える方法から解説すれば, において,2行目と3行目を入れ換えると,符号だけ逆になるから |
A)← 成分を用いて示すと(これを目で追うのはかなりの苦痛!) について だから |
行列式で覚える方法から解説すれば, において,行列式の値は各行について線形(特に,今の場合は3行目について線形)だから 後半の式も同様にして示される |
B)← 図でも,成分でもほとんど明らかであるから,証明は略する C)← は,にもにも垂直だから,これらとの内積は0になる D)← 次の行列式を考える 1行目に沿って展開すると これは,との内積に等しい 2行目に沿って展開すると これは,との内積に等しい 同様にして,3行目に沿って展開すると,に等しい ※この行列式 は,絶対値をとって符号を正にすれば,3つのベクトルによって作られる平行六面体の体積に等しい. なぜなら,の大きさは底面積に等しく,は高さに等しいから,これらの積は体積になる. |
スカラーとベクトルの外積は定義されないが,ベクトルとベクトルの内積は定義される.そこで,は,を表すものと解釈する. 同様にして,は,を表すものと解釈する. このとき, が成り立つ.すなわち,変数(ベクトル)の順序が同じならば,内積と外積の順序を入れ替えても,ベクトル三重積の結果は変わらない.
(証明)
そこで,これ(ら)を単にで表す.だから だから サイクリックな順に書かれたベクトル三重積は,互いに等しい.その内の1組の順序を入れ替えると符号が逆になる.
(証明)
2つのベクトルの内積は変数(ベクトル)の順序を入れ替えても変わらないから, 同様にして 2つのベクトルの外積は変数(ベクトル)の順序を入れ替えると符号が逆になるから, 同様にして 同様にして ※の並べ方(順列)は6通りであるから,2回以上入れ換えても上記の6通りのいずれかに一致する |
E)← 成分計算を行えば示せるが,とても長い計算になるので,ここでは図で考えてみる. まずは,に垂直 次に,はに垂直だから,を含む平面内にあり, と書ける. さらに,このベクトルはに垂直だから したがって,とおける. すなわち の形に書けるので,後は必要条件を使ってtの値が1になることを示せばよい. のとき だから 右辺は, よって,t=1が必要条件になることが示された. |
特別な値としてなどとしても,同様にしてt=1が求められる.
の公式はなお,を含む平面内にあるベクトルが,必ずしもに垂直になるとは限らないことに注意.図で桃色と水色で示したように,とを含む平面のなす角は,一般には鈍角と鋭角になるが,黒で示した1つの方向だけ(向きはあちら向きとこちら向きの2つある)垂直になる. さらに,が互いに鋭角をなしている上の図のような場合,からに向かって回転すると,には後ろ向きに,には前向きのベクトルになるので の符号が納得できる. を使えば,別途証明しなくて済む F)← であるから |
【例2.3.1】
(証明)ベクトルの外積について,ヤコビの恒等式 が成り立つことを示してください. C)の公式により 右辺の和はであるから が成り立つ
【例2.3.2】
(証明)は零ベクトルでなく,互いに平行でもないとする. であるならば,となることを証明してください. E) 内積との関係(3)…ベクトル三重積により だから ならば ならば,となって,が互いに平行でないという仮定に反する.したがって, は零ベクトルでないから, 同様にして,も示せる. |
は必ずしも成り立たない.
例えば,のとき, 他方で となって,が成り立つ. このとき,であるが,は成り立たない.
【例2.3.3】
(証明)3次元ベクトルは零ベクトルでないとするとき, は,ベクトルをベクトルに平行な成分とに垂直な成分とに分解することを証明してください. E) 内積との関係(3)…ベクトル三重積 において,とおくと 移項すると ここで,はに平行,はに垂直 両辺をで割ると が得られる. |