【グラム・シュミットの直交化法】 n個の1次独立なベクトルが与えられたとき,これらを用いてn個の正規直交ベクトルを作る次の方法をグラム・シュミットの直交化法という. …(1) とおく.このとき,が成り立つから,は単位ベクトルになる. 次に,ベクトルととの内積 はの方向への射影の長さ(符号あり)を表しているから, が方向への射影ベクトルを表す. このとき を作ると,はに垂直なベクトルになる. …(2) とおくと,はに垂直な単位ベクトルになる. |
同様にして を作ると,はにもにも垂直なベクトルになる. …(3) とおくと,はにもにも垂直な単位ベクトルになる. この操作を繰り返して …(n) とおくと,はに垂直な単位ベクトルになる. |
【例題1】
(解答)グラム・シュミットの直交化法を用いて,次のベクトルから正規直交系を作ってください. だから とおく. 次に, ここで,だから したがって …(答) (注意) 1組の1次独立なベクトルから,グラム・シュミットの直交化法によって,正規直交系がただ1通りに決まる訳ではない. 処理するベクトルの並べ方(順序)によって,結果として作られる正規直交系は変わる. 例えば,上記の問題をの順に処理した場合には, が得られる. |
【問題1】
解答を見る解答を隠すグラム・シュミットの直交化法を用いて,次のベクトルから正規直交系を作ってください.
(解答)
だから とおく. 次に, ここで,だから とおく さらに とおく.ここに,だから |
※グラム・シュミットの直交化法により,n次元空間のn個の1次独立なベクトルからそのn次元空間全体を生成する正規直交系が得られるが,n次元空間においてm個(m<n)の1次独立なベクトルからは,m次元部分空間を生成する正規直交系が得られる.
【例題2】
(解答)次のベクトルで生成される,R4の部分空間の正規直交基底を求めよ. (b) (1, 2, 1, 0)と(1, 2, 3, 1) (「ラング線形代数学(上)」芹沢正三訳/ちくま学芸文庫
P.223からの引用) のとき,だから 次に,のとき とおくと,だから ここで |
【問題2】
解答を見る解答を隠す次のベクトルで生成される,R3の部分空間の正規直交基底を求めよ. (b) (1, 1, −1)と(1, 0, 1) (「ラング線形代数学(上)」芹沢正三訳/ちくま学芸文庫
P.222からの引用)
(解答)
のとき,だから 次に,のとき とおくと,だから ここで |
【例題3】
(解答)区間[0, 1]の上の連続実関数のなすベクトル空間を考える.このような2つの関数のスカラー積を,規則 で定義する. をおよびである2つの関数およびで生成される関数の部分空間とする.の正規直交基底を求めよ. (「ラング線形代数学(上)」芹沢正三訳/ちくま学芸文庫
P.223からの引用) であるから, |
次に,とおくと だから ここで であるから, |
【問題3.1】
解答を見る解答を隠す区間[0, 1]の上の連続実関数のなすベクトル空間を考える.このような2つの関数のスカラー積を,規則 で定義する. を3つの関数で生成される関数の部分空間とする.の正規直交基底を求めよ. (「ラング線形代数学(上)」芹沢正三訳/ちくま学芸文庫
P.223からの引用)
(解答)
とおくと, のとき,とおくと さらに,のとき,とおくと (参考) が成り立つ.(これは定数との内積が0ということから言える) |
関数の正規直交化においてスカラー積を定義する区間は,脇役や添え物ではない.上記の【問題3.1】と同じ関数を使っても,区間を変えると結果は全く別のものになる.
【問題3.2】
解答を見る解答を隠す区間[−1, 1]の上の連続実関数のなすベクトル空間を考える.このような2つの関数のスカラー積を,規則 で定義する. を3つの関数で生成される関数の部分空間とする.の正規直交基底を求めよ.
(解答)
計算はほぼ同様に行えばよい.積分の区間だけは−1〜1とすればよい. この問題では,逆に上記の関数が正規直交系になっていることを示す検算を行ってみる. ≪直交系であることの証明≫ は,奇関数を[−1, 1]で積分するものだから0である. は,奇関数を[−1, 1]で積分するものだから0である. 以上により,区間[−1, 1]において関数は互いに直交している. ≪正規系であることの証明≫ 以上により,区間[−1, 1]において関数は正規化されている. (参考) が成り立つ.(これは定数との内積が0ということから言える) |