== 三角形の重心 ==
【要点】
 3点を頂点とする△ABCの重心Gの座標は
(用語)
三角形△ABCの頂点とその対辺の中点を結ぶ直線を,「中線」という.
△ABCの3つの中線は1点で交わる.この点を「三角形の重心」という.…(*1)
(避けて通れないこと=必ず納得しなければならないこと)
上記の定義(*1)に忠実に従って,三角形の重心を求めようとすると,「中線の交点を求める方法」が分からなければなりませんが,高校数学の教材の並べ方から言うと,重心の座標を習う段階では,まだ2直線の交点を求める方法を習っていません.(内容的にはベクトル方程式の交点[数学B]や複素数平面での直線の方程式「数学V」で求めることができます).
そこで,この段階で重心の座標の公式を証明するには,通常,上記の重心の定義(*1)と重心の定義から導かれる性質(*2)を取り換えて,(*2)を満たすものが重心になるということを使います.
三角形の重心は,各々の頂点と中点を結ぶ線分を2:1に内分する点になっている…(*2)
(*2)の証明

線分の長さは,同じ色同士で「比」を表すものとする
[中学2年生で習う平行線の性質を使って証明する方法]
まず,APとCRの交点をGとおくと,CG:GR=2:1になることを示す.
RからAPに平行な直線を引き,BCとの交点をDとおくと,AR:RB=1:1だからPD:DB=1:1
次に,BP=PCだから
DP:PC=1:2
したがって,CG:GR=CP:PD=2:1
同様にして,AG:GP=2:1になることを示す.
PからCRに平行な直線を引き,ABとの交点をEとおくと,CP:PB=1:1だからRE:EB=1:1
次に,BR=RAだから
ER:RA=1:2
したがって,AG:GP=AR:RE=2:1
同様にして,直線BQを使ってBG:GQ=2:1となることを示せる.

【要点】の公式の証明←
(*2)により,「APを2:1に内分する点」の座標を求めると重心の座標になる
PはBCの中点だから,ぞの座標は

次に,GはAPを2:1に内分する点だから,その座標は

…証明終■
【例題1】
3点の重心の座標を求めてください.
(解答)
…(答)

公式を確実に身に着けるための問題
【問題1】 (選択肢の中から正しいものをクリック)
(1)
3点の重心の座標を求めてください.
(2)
3点の重心の座標を求めてください.

(3)
3点を頂点とする三角形ABCの重心がになるとき,頂点Cの座標を求めてください.
(4)
3点を頂点とする三角形ABCの重心がになるとき,頂点Cの座標を求めてください.

深く考える問題
※以下の記述は教科書レベルではありません.難しいと思ったら省略してもよい
(1) 「重心」とは何かということを端的に説明するために,三角形の均質な板(例えば三角定規)で,そこを支えると板全体を支えられる点のことだという説明をすることがある.
中学・高校の同級生の中には器用な者がいて,右図のような三角定規や下敷きを指の先でうまくバランスをとって遊んでいた.これは,「重心」をとらえているからである.
ところで,三角形の重心が
…(*3)
で表されるのなら,その類推で四角形,五角形の重心は
…(*4)
…(*5)
になるだろうと期待するが,全然違う
(2) 結論から言えば

は,「発砲スチロールのトレイのように重さがほとんどなくて,構造はしっかりしている物の上に,3個の(同じ重さの)重りがあるときの重さの中心」になっています.このように複数の質点から成るシステムを質点系といいます.実は,(*3)(*4)(*5)は物理で質点系の重心を表す公式になっています.
三角形のときは,たまたま「3点の重心と三角形の重心が一致」しますが,四角形,五角形,…となるとそれらが一致するとは限りません.
次の公式は,「3つの点」「4つの点」「5つの点」に同じ重さの質量が置かれている質点系の重心を表しています.




(3) ではなぜ「三角形の重心」という用語を使って教えているのでしょうか.
数学では,三角形の外心,内心,垂心などと並んで,三角形の重心という「用語」を次のように「定義している」のです.
「三角形の3つの中線が1点で会する点を三角形の重心という」.
この定義においては,どこにも「重さが…」とは書いてなく,読者が「重さ」を連想するのは自由ですが,「形」から決まる「場所」を定義しているだけです.そこで言われている内容は事実であり,どこにも嘘はないのです.
たまたま,三角形だけは「3点の重心」と「三角形の重心」が一致しますが,「四角形の重心」「五角形の重心」となると単純ではないので,授業では次の(4)以下の話には触れない方が多いでしょう.
(4) 「形のある板」の重心を計算するには,本来,次のようにしなければなりません.
まず,小学校で習う「テコの原理」を思い出します.右図では,▲で示した支点に対して,左に回そうとする回転のモーメントはで,右に回そうとする回転のモーメントはです.
のとき,このテコはつり合って回転しません.そのとき,▲で示した支点を上向きにの力で支えると,このテコのシステムは静止します.この場合,▲で示した支点が重心になります.
次に,厚さが一定で,どの場所も均質な重さになっている(面密度がρ)三角形の板の重心を計算するには,積分計算が必要になります.なるべく計算しやすいように,上図のような三角形ABCを考えると,重心に対して短冊形で示した「面積素片」が(x軸方向に)右に回そうとする回転のモーメントは

のときは,この値は負になるが,それが左に回そうとするモーメントだと考えればよいから,結局,重心のx座標は次の関係式を満たす.

この積分計算をして,定数を求めると

同様にして,y方向の回転のモーメントから定数を求めると

となって,△ABCの重心と一致します.
このように,広がりのある形をもった物の重心の計算は,原理的に面積素片の回転モーメントの積分になります.
(5) ここまでのまとめ

は,同じ重さでできたn個の質点からなる質点系の重心を表し,n角形の形をした均質な板の重心とは一般には異なる.
ただし,同じ重さでできた3個の点についての質点系の重心と三角形の重心は一致する.

(6) 四角形,五角形の重心の求め方
上記の(5)の内容を踏まえると,四角形,五角形の重心を求めるには,面積素片の回転モーメントの積分を計算するのが王道ですが,高校2年生の初めの頃には,積分計算を習っていないはずです.
そこで,「三角形だけは,質点系の重心と三角形の重心が一致する」ことを利用して,四角形,五角形を幾つかの三角形に分けて重心を求めると,積分計算を使わずに重心を求めることができます.
まず,四角形ABCDを△ABDと△BCDに分けて,各々の重心G1,G2と重さw1,w2を求めます.
次に,重さが異なる2つの点の重心をテコの原理で支点を求めた方法で計算します.
右図において,に質量の点があり,に質量の点があるとき,全体の重心(支点)のx座標は,右回りの回転モーメントと左回りの回転モーメントが等しくなる点だから

より



すなわち,に内分する点となる.重心のy座標も同様

【例1】
右図のような四角形ABCDの重心の座標を求めてください.ただし,とします.
(解答)
(ア) 2つの三角形に分ける方法
i) △BCDと△DABに分けて重心を求め,次に全体の重心を求めます(高校2年の前半でできる)
△BCDの重心の座標は
面積はだから,面密度をとするとその質量は,
△DABの重心の座標は
面積はだから,面密度をとするとその質量は,
そこで,全体の重心はに内分する点となる.




…(答)

ii) (別解) 上下に分ける場合
△ABCと△BCDに分けて重心を求め,次に全体の重心を求めると
△ABCの重心の座標は
面積はだから,面密度をとするとその質量は,
△CDAの重心の座標は
面積はだから,面密度をとするとその質量は,
そこで,全体の重心はに内分する点となる.




…(答)

※なお,この座標は4点
から成る質点系の重心とは異なることを確かめておきましょう.

(イ) 面積素片の回転モーメントの積分を計算する方法
(高校2年の冬にはできる)
右図のように,重心のx座標をとおく
のとき,面積素片の縦の長さは


したがって,面積素片は
重心との距離はであるが右回転モーメントの符号を正にすると,この面積素片による右回転モーメントは

黄色で示した△BCDによる右回転モーメントは

のとき,面積素片の縦の長さは


したがって,面積素片は
重心との距離はであるが右回転モーメントの符号を正にすると,この面積素片による右回転モーメントは

水色で示した△DABによる右回転モーメントは
そこで,左右の回転が釣り合うためには
積分計算を行って,定数を求めると

同様にして,y方向に積分すると

が求まる.

【例2】
4点で囲まれる台形の重心の座標を求めてください.
ただし,とする.
(解答)
@△ABCと△ACDに分けて求める場合
△ABCの重心

面積は

△CDAの重心

面積は

に内分する点


したがって
…(答)
A[別解]△BCDと△ABDに分けて求める場合
△BCDの重心

面積は

△ABDの重心

面積は

に内分する点


したがって
…(答)

B[別解]面積素片の回転モーメントの積分を計算する方法
面密度をρとおく
のとき,縦長に切り出した短冊の長さは,横幅は
この面積素片がx軸方向に右回転するモーメントは

のとき,縦長に切り出した短冊の長さは,横幅は
この面積素片がx軸方向に右回転するモーメントは

したがって,重心のx座標は次の等式を満たす.

この積分計算を気長に行うと

が得られる.
重心のy座標は次の等式を満たす.

この積分計算を気長に行うと

が得られる.
※どの方法で求めても,4点に質量が等しい質点が置かれている場合の質点系の重心

とは異なることに注意
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