== 確率変数の変換 ==
【要点】
 確率変数Xの期待値がm,標準偏差がσであるとき,
Y=aX+b
 によって定められる変数Yの期待値m’,標準偏差σ’
m’=am+b…(1)
σ’=|a|σ…(2)
で求められる.

変数Yの分散V’は,変数Xの分散Vから次の関係で求められる.
V’=a2V…(3)

Y=aX+bによって,変数Yが定義されるとき,確率分布表は次の表のようになる.
確率変数X x1 x2 x3 xn
確率変数Y ax1+b ax2+b ax3+b axn+b
確率P p1 p2 p3 pn 1
 確率変数Xの期待値がm,標準偏差がσだから
m=x1p1+x2p2+…+xnpn…(A)
V=(x1−m)2p1+(x2−m)2p2+…+(xn−m)2pn
σ=…(B)
このとき
(1)←
m’=(ax1+b)p1+(ax2+b)p2+…+(axn+b)pn
=a(x1p1+x2p2+…+xnpn)+b(p1+p2+...+pn)
=am+b
(図1のように,個々の変数Yの定義式と同じ変換を受けます.E(Y)=aE(X)+bと書いてもよい.)
【例】
 Xの期待値が2で,確率変数YY=3X+4で定義されているとき,Yの期待値は,3×2+4=10になります.
右に続く→
図1
※伸び縮みを表す係数aは期待値にも標準偏差にも影響する.平行移動を表す係数bは期待値だけに影響し,標準偏差には影響しない.
→続き
(3)←  Yの分散V’は,
V’=(ax1+b−am−b)2p1+(ax2+b−am−b)2p2+…
+(axn+b−am−b)2pn
={a(x1−m)}2p1+{a(x2−m)}2p2+…{a(xn−m)}2pn
=a2(x1−m)2p1+a2(x2−m)2p2+…a2(xn−m)2pn
=a2 { (x1−m)2p1+(x2−m)2p2+…(xn−m)2pn }
=a2V
(2)←
 aは正の数とは限らないので
σ’==|a|=|a|σ
【例】
 Xの標準偏差が5で,確率変数YY=3X+4で定義されているとき,Yの標準偏差は,3×5=15になります.
上の図1のように,標準偏差の方は定数項4の影響を受けません.
【例題1】
 100円硬貨を投げて,表が出た金額の2倍を受け取り,使用した硬貨は参加費として取られるゲームを行う.
 100円硬貨2枚を投げて,このゲームに参加するとき,差し引き儲かる金額の期待値と標準偏差を求めてください.
 100円硬貨を2枚投げて,表がr枚出る確率は
2Cr()r()2−r=2Cr()2
だから,表の枚数をXとすると,確率変数Xの確率分布表は次のようになる.
X 0 1 2
X 2 0 1 4
P 1
E(X)=0×+1×+2×=1
 表がX枚のとき,儲けは100X(円)の2倍で200X(円),損失は200(円)だから,差し引き儲かる金額をYとすると,
Y=200X−200
 したがって
E(Y)=200×E(X)−200=0(円)…(答)
 次に,
E(X 2)=0×+1×+4×=
V(X)=E(X 2)−E(X)2=
σ(X)==
σ(Y)=200×σ(X)=100≒141(円)…(答)
※次のように,Y, Y 2の確率分布表を作って,直接求めることもできる.
X 0 1 2
Y −200 0 200
Y 2 40000 0 40000
P 1
E(Y)=−200×+0×+200×=0
E(Y 2)=40000×+0×+40000×=20000
V(Y)=E(Y 2)−E(Y)2=20000
σ(Y)==100
※なお,数学の話ではないが,くじやゲームで「懸け金(参加費)の出費を伴うもの」は,宝くじや競馬のように法律で認められているものを除いて,賭博罪で罪になります.商店街や祭りのくじ引きのように「一方的にもらうだけ」のものはこれに該当しません.
 ここでは,Y=aX+bの定数項bを含む問題とするために,出費を伴う問題にしたもの.
 正しい番号を選択してください.
【問題1】
 100円硬貨を投げて,表が出た金額の2倍を受け取り,使用した硬貨は参加費として取られるゲームを行う.
 100円硬貨3枚を投げて,このゲームに参加するとき,差し引き儲かる金額の期待値と標準偏差を求めてください.
(最も近いものを選んでください)

1期待値0(円),標準偏差173(円)
2期待値0(円),標準偏差200(円)
3期待値150(円),標準偏差141(円)
4期待値150(円),標準偏差200(円)




【要点】
 元の変数Xの平均値(期待値)がm,標準偏差がσのとき,これを偏差値Zに直すには
Z=(X−m)+50…(4)
※ よく登場する偏差値と元の変数の対応関係
変数X m−3σ m−2σ m−σ m m+σ m+2σ m+3σ
偏差値Z 20 30 40 50 60 70 80
(解説)
 国語の平均点が60点で標準偏差が10点,数学の平均点が45点で標準偏差が15点というように,平均点や散らばり具合が教科・科目によって異なるときに,Aさんは国語が65点で数学が60点であったとすると,Aさんの集団の中での相対的な順位はどちらの教科が高いか?というような問題に答えるものとして「偏差値」という尺度があります.
 元の変数Xの平均値(期待値)や標準偏差がどうなっていても,これを平均値(期待値)50や標準偏差10の変数に直して比較するのが偏差値です.
 元の変数Xと偏差値Zとは上の図のように対応します.
 比例関係
(X−m):σ=(Z−50):10
により,偏差値Zは次の式によって求められます.
Z=(X−m)+50
【例】
 上の例で,Aさんの国語の偏差値は
z1=(65−60)+50=55
数学の偏差値は
z2=(60−45)+50=60
となるので,数学の偏差値の方が高いことになります.

※(参考)
 (4)式で定義される偏差値をそのまま使う限り,偏差値が100以上になることも,負の値になることも起り得ます.
△例えば,平均が30点で標準偏差が10点の試験で,ある人の得点が90点の場合は,偏差値110になります.
▼平均が55点で標準偏差が10点の試験で,ある人の得点が0点の場合は,偏差値−5になります.
【問題2】
 ある学年で英語の平均点が65点で標準偏差が8点であった.その試験でAさんの得点が75点であったとき,Aさんの英語の偏差値を求めてください.


155.0 257.5 360.0 462.5



【問題3】
 平均が55点,標準偏差が12点の試験で偏差値60以上となるためには,何点以上取ればよいか.

155点以上 261点以上
367点以上 473点以上




【要点】
 変数の基準化(規格化,標準化)とは,平均値が0,標準偏差が1となる変数に変換すること.
 元の変数Xの平均値(期待値)がm,標準偏差がσのとき,基準化(規格化,標準化)した変数をZとすると
Z= ←→ X=m+Zσ…(5)
※ 基準化(規格化,標準化)された変数Zと元の変数Xの対応関係
X m−3σ m−2σ m−σ m m+σ m+2σ m+3σ
Z −3 −2 −1 0 1 2 3
(解説)
 統計においては,身長と体重,国語の得点と数学の得点のように,測定の単位や平均,標準偏差の異なるデータを比較するために,各々の変数を平均値が0,標準偏差が1となる変数に変換して使うことが多い.
 この場合,基準化(規格化,標準化)された変数Zと元の変数Xとは,次の関係を満たす.
Z= ←→ X=m+Zσ
【例】
 ある学級の生徒の身長について,平均が165(cm),標準偏差が8(cm)のとき,身長x1=160(cm),x2=172(cm)という2人のデータを基準化すると
x1=160 → z1=−0.625
x2=172 → z2=0.875
【問題4】
 平均15.0,標準偏差4.0の変数Xを基準化したとき,変数x1=21.0はどんな値に変換されますか.

10.5 21.0 31.5 42.0



【問題5】
 次のグラフの中で,変数Xとその基準化変数Zの対応を表しているものを選んでください.

1 2 3 4




 今日では,統計計算をコンピュータで行うことが多いので,次に述べる仮平均法(簡便計算法)を使わずに,直接計算することもできますが,筆算で平均値や標準偏差を求めるときは,小さな整数値で処理する仮平均法(簡便計算法)が便利です.
【仮平均法(簡便計算法)の原理】
 一般に,階級幅cの度数分布表において,仮平均をx0として仮変数uを導入するとき,元の変数xを用いた計算が複雑な小数計算であっても,uを用いた計算は,階級幅1の簡単な整数値の計算でできます.
 このとき,E(u)からE(x)へは次の式で戻すことができます.
E(x)=cE(u)+x0
σ(x)=cσ(u)
(解説)
階級値xk 度数fk 仮変数uk uk2
32.5 3 -2 4
37.5 5 -1 1
42.5 7 0 0
47.5 4 1 1
52.5 1 2 4
【例】
 右の表のように,階級幅5 (37.5−32.5=5, 42.5−37.5=5)の度数分布表が与えられているとき,この表から平均や標準偏差を計算するためには,込み入った小数計算をしなければなりませんが,仮平均を使って変数を変換すると,簡単な1桁の整数計算でできるようになります.

 度数分布表の中央付近で,度数の最も大きい階級(この表では,赤で示した42.5)の階級値を仮平均u=0として,増える方向に1, 2, ..,減る方向に−1, −2, ..という階級値を仮変数ukとして割り当てます.

 このように仮変数ukとして割り当てると,uk0の近くの小さな整数値なので,掛け算,足し算などが楽にできます.
E(u)=(3×(−2)+5×(−1)+0+4×1+1×2)÷20
=(−6−5+4+2)÷20=(−5)÷20=−0.25
E(x)=5×(−0.25)+42.5=41.25

E(u2)=(3×4+5×1+0+4×1+1×4)÷20
=(12+5+4+4)÷20=25÷20=1.25
V(u)=E(u2)−E(u)2=1.25−0.0625=1.1875
σ(u)==1.09
σ(x)=5×1.09=5.45
仮平均法(簡便計算法)では,「中央付近」かつ「度数が大きい階級値」を仮平均x0に選ぶのがコツ
⇒ 0を掛けることになって,計算が省略できる.
【問題6】
 元の変数Xについて,階級幅5の度数分布表に表されているとき,仮平均をx0=35.5として仮変数を使って求めたら,E(u)=0.1 , σ(u)=1.22となった.このとき,元の変数Xの平均と標準偏差は次のうちどれか.

1平均35.5,標準偏差1.22
2平均35.5,標準偏差41.6
3平均36.0,標準偏差6.1
4平均36.0,標準偏差41.6




【問題7】
x f u
15 2 -2
25 3 -1
35 9 0
45 5 1
55 1 2
 右のような度数分布表で表される変数xkについて,仮平均をx0=35として,仮変数ukを使って平均と標準偏差を求める計算を行った場合に,正しいものを選んでください.

1E(u)=−0.1, σ(u)=1.0
2E(u)=0.0, σ(u)=1.0
3E(u)=0.1, σ(u)=1.5
4E(u)=0.2, σ(u)=1.5




1E(x)=34, σ(x)=6
2E(x)=34, σ(x)=10
3E(x)=35, σ(x)=8
4E(x)=35, σ(x)=10




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