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♪∀~勝手に批評~個人の感想~∅♥
 このページ全体が,筆者個人の感想です.他のどこかのWEBぺージや出版物に,これと同種の記述があるかどうかは確認していません.あくまで筆者個人がそう考えたということを述べています・・・特に(あ)と書いた部分.

== 原始関数と不定積分 ==

1
はじめに
 あるとき大学の数学の先生と話をしているときに,原始関数と不定積分という用語や記号の使われ方が高校と逆かもしれないと思うことがあった.
 2018年度のセンター試験問題 数学Ⅱ・数学Bの問題中の不定積分という用語にも,これと同様の違和感を感じたので,高校や大学の教科書で「原始関数」「不定積分」という用語や記号がどのように使われているのかを調べてみた.
 元々,数学史上では,長い間,積分と微分とは全く別の物として扱われてきた.耕作地の面積の測量,葡萄酒を入れるに適した樽の形のような実用的な問題は,積分の問題である.また,円の面積を三角形に分けて求める(取り尽くし法)ことなども積分の問題である.このように,数学史上では積分が先に発展した.
 これに対して,微分は接線の求め方などを通して,後から登場した.ところが,17世紀後半に,イギリスのバロウが求積問題と接線問題とが逆の問題であると言い始め,ニュートンやライプニッツによって微積分学として確立された.
 日本の高校では,微分→不定積分→定積分の順に教える.その長所は授業時間が短縮できることであるが,不定積分が計算できない実測値など(初等関数以外)では面積・体積が考えられないという辺りが短所かな.(あ)
2
高校と大学での使用例
 以下においては,関数f(x)は連続なものだけを取り扱う.また,教科書会社名は,頭文字で示し,H25等は発行年を表す.
 「原始関数」「不定積分」の使われ方は,大きく分ければ,次の3通りに分類できる.各々の内部で,さらに細かな違いはある.

(A) 《高校教科書の多数説》

 F'(x)=f(x)であるような関数F(x)を,関数f(x)の原始関数という.
 関数f(x)の原始関数をまとめて
f(x)dx
と表し,f(x)の不定積分という.すなわち
f(x)dx=F(x)+CCは積分定数)
最後の式は,方程式ではない.
また,A=x+yとおくというような,定義・代入を表す式でもない.
f(x)dxF(x)+Cに等しくなると読む
数学Ⅱ:K社(H26),S社(H25),T社(H17,H25)
数学Ⅲ:D社(H25),K社(H26),S社(H25),T社(H25)
《文例》
• 『原始関数の1つをF(x)とする』という言い方をする(『1つの原始関数をF(x)とする』という言い方はめったにない[高校教科書の記述35箇所のうちで,S社数Ⅱ(H25 p.199)に1箇所だけある])
f(x)の原始関数の1つをF(x)とすると』(T社)
『原始関数は無数に存在する』(T社)
『1つの関数の原始関数は無数にある』(K社)
• 『積分する』という言い方をする
『不定積分を求めることを,積分するという』
『積分することと微分することは,互いに逆の計算であるといえる』
• 実際はいつも右辺に+Cなる任意定数が加わるものと理解すべきである.このような性質のものであることから,これに不定積分の名がついているのである.(微分積分学Ⅱ/基礎数学講座/共立出版 p.239)
• 原始関数は微分方程式の特別解に対応し,不定積分は一般解に対応する.また,不定積分の「不定」とは積分定数が不定であるという説明にもなっている.この説が最も分かりやすい.(あ)

(B) 《大学数学の多数説》

《用語》
 F'(x)=f(x)であるような関数F(x)を,関数f(x)の原始関数または不定積分という.
《記号》
F(x)=f(x)dx (#1)p.89
f(x)dx=F(x)+C (#2)p.47
この使い方では「原始関数」は「不定積分」の別名で,全く同じ意味・全く同じ記号になる.
大学
解析概論(高木貞二)#1,解析学序説(一松信)#2,S.ラング解析入門(松坂・片山訳)#3,微分積分学Ⅱ(基礎数学講座/共立出版)#4,解析入門Ⅰ(小平邦彦)#5
公式集
モノグラフ(2007)(#6),定理・公式の例解事典(H16)(#7)
数学Ⅲ
S社(H23)
《文例》
• 『不定積分の1つをF(x)とする』という言い方をする
『不定積分が関数全体,原始関数をその中の一つ,と使い分ける人もある.これは合理的であるが,普通には必ずしもそのように厳密に使い分けられていないようである.』 (#2)p.47脚注
一松先生は,原始関数や不定積分について,用語や記号が揃っていない現状を正直に述べていると思われる.(あ)
『不定積分の定義は確定していないようである.・・・この解析入門では,・・・不定積分はすなわち原始関数である,と定義したのである.』#5 p.165
小平先生にそういわれてしまうと,「当面,暫定的に,一応,とりあえず」不定積分という用語を使っているという気分で一杯になる.
内容が難しいからではなくて,定義での不揃いは大した問題ではないと考える先生が多いのかもしれない・・・定積になれば自然に揃う.(あ)
f(x)dxはただ1つの関数を表すのでなくて,導関数がf(x)であるような関数全体,すなわちf(x)の不定積分の全体(不定積分の集合)を表す記号である。したがって不定積分に関する等式は,両辺の不定積分の集合が等しいことを示している』(#6 p.196)
この立場に立てば,不定積分というのは,1つの関数を表す用語であって,かつ,関数の集合を表す用語になる.したがって,その用語が使われている文脈から,1つの関数のことなのか,関数の集合のことなのかが識別できないと困る・・・「自分自身を要素として含む集合」というラッセルのパラドックスのようなコテコテの問題に巻き込まれたくない.(あ)
『関数cosxの1つの不定積分はsinxである』という言い方をする.(#3)p.216.
これは訳書であり,訳者の言い方かもしれない.
この言い方からは2文字の「不定」には意味がなく,4文字で完結する用語「不定積分」は,単に積分(でできた関数)というのと同じになる.(あ)
F'(x)=f(x)であるような関数F(x)を,関数f(x)の原始関数または不定積分といい,記号f(x)dxで表す.f(x)の不定積分の1つをF(x)とすると,f(x)の不定積分は
f(x)dx=F(x)+CCは積分定数)
と表される.(S社H23 p.136)
F(x)が不定積分なのか,F(x)+Cが不定積分なのか,f(x)dxなのか,いずれも不定積分なのか,♪~みんな生きてる仲間じゃないか~♪~友達の友達はみな友達だ~♪のような同義語反復にも聞こえるが?
登場する順に整理してみると
F(x)は不定積分
f(x)dxは不定積分
F(x)は不定積分の1つ
F(x)+Cは不定積分
どれが不定積分なのか,なんでもありなのか,再帰的定義なのか,同義語反復なのか,読めば読むほど分からなくなる(あ)

(C) 《原始関数という用語を使わない立場》

 F'(x)=f(x)であるような関数F(x)を,関数f(x)の不定積分という.
 f(x)の不定積分の1つをF(x)とすると,f(x)の任意の不定積分は
F(x)+C
の形に書ける.これをf(x)dxで表す.
 f(x)の任意の不定積分を求めることを,f(x)を積分するといい,定数Cを積分定数という.
数学Ⅱ
D社(H17)
f(x)の不定積分の1つをF(x)とする』(D社p.186, p.191,p.194)
f(x)の不定積分の1つをF(x)とすると,f(x)の任意の不定積分はF(x)+Cの形に書ける.」(D社数Ⅱ」H17)という言い方になる.
微分の逆の演算としての不定積分について取り扱う。(高等学校学習指導要領解説数学編H30)
学習指導要領解説において,不定積分という用語は,得られた関数を表すだけでなく,微分の逆としての演算を表す.(あ)
3
シーザー,お前もか!
 『ブルータス,お前もか!』は,腹心の部下だと思っていたブルータスに裏切られたローマの独裁者シーザーの言葉とされている.
 ところで,高等学校学習指導要領,高等学校学習指導要領解説・数学での「原始関数」「不定積分」の取り扱いを調べてみると,何と!原始関数という用語を使わない(C)の立場に立っている.信頼していた親方に背負い投げを食らわされた感じ,すなわち,シーザー,お前もか!と言わざるを得ない.
 「たすき掛け因数分解」のように,高等学校学習指導要領,高等学校学習指導要領解説には記述がなくて,授業の中であるいは学習塾で,分かりやすく教えるための工夫として教えられるものがあることは構わないが,原始関数は,学習理解を助けるための補助輪ではない.乗れるようになったら外す物ではない.
 「原始関数」「不定積分」は「検定済み教科書に掲載されている」ので,それ自体の定義が決まらないままに大学入試に出題されると,困ってしまう.
4
まとめ
 原始関数や不定積分の用語や記号については,諸説あって,1つに絞り切れないように見えるかもしれないが,何でもありではない.高校では次の枠組みの中で答案を作る.
1. 教科書,問題集,入試問題で「原始関数を求めよ」などという問題が出ることはない.「積分せよ」「不定積分を求めよ」という形で出題される.
【あり得る問題例】
(1) 次の不定積分を求めよ.
(2x3)dx
(2) 次の関数の不定積分を求めよ.
f(x)=2x3
(3) 次の関数を積分せよ.
f(x)=2x3
【まずい問題例】
(4) 次の関数の不定積分を求めよ.
(2x3)dx
「次の(関数の不定積分)を求めよ.」と読めば,(1)と同じ問題に読めるが,「(次の関数)の不定積分を求めよ.」と読めば,不定積分で表される関数のさらに不定積分を求めよと読めるから,問題の意味が定まらない.この問題は良くない.
2. 「不定積分を求めよ」という問題に対しては,積分定数(任意定数)Cを付けた形で答える.(必ず!)
【良い答案】
(1) 次の不定積分を求めよ.
(2x3)dx=x23x+C
【減点される答案】
(2) 次の不定積分を求めよ.
(2x3)dx=x23x
教科書や巻末に「以下,紙面の都合で積分定数Cを省略する」と書かれているような,事情が分かったもの同士では省略することがあるが,生徒の答案でCを省略したら減点になる.
3. 任意定数を含むものが不定積分,定数が定まったものが原始関数と考える立場でも,通常は「次の原始関数を求めよ」という問い方はしない.次の例のように,微分と元の関数の1つの値(初期条件)を満たす関数を求める問題として出題される.
【あり得る問題例】
(1) 次の条件を満たす関数f(x)を求めよ.
f'(x)=2x+1, f(0)=1
4. 上記のように立場A,B,Cによって,不定積分という用語の意味が変わるが,定積分として使う場合は,どの立場で読まれても同じものになる.
(Cの立場があるから,原始関数という用語は使わない者もいるが,不定積分という用語は皆が使う・・・ただし,同じ意味で使っているとは限らない)
F(x)f(x)の不定積分とするとき」
F(b)−F(a)の値
F(x)−F(c)という関数
は,A,B,Cのどの立場から読んでも同じものを表す.
F1'(x)=f(x)
F(x)=F1(x)+CCは任意の定数,または,特定の定数とする)
F(x)f(x)の不定積分とするとき」
F(b)−F(a)={F1(b)+C}−{F1(a)+C}
=F1(b)−F1(a)

F(x)−F(c)={F1(x)+C}−{F1(c)+C}
=F1(x)−F1(c)

となって,任意の定数,または,特定の定数Cの値に関係なく定まる.
 当初の問題意識に戻ると,2018年度のセンター試験問題 数学Ⅱ・数学Bの問題で
F(x)f(x)の不定積分とする。』
と書かれているとき,F(t)−F(t)が解答に絡んでいると,立場A,B,Cによって意味が変わるが,F(t)−F(1)−F(t)+F(1)が解答に絡んでいる場合には,どの立場から見ても同じ値となる.
※大学の先生が,大学で教えているニュアンスのままに問題を作り,高等学校学習指導要領で点検すると,不定なものなどない明快な問題に見えるが,高校生が読むと,教科書で習ったことと違うことが書かれている.不定積分はF(x)などとは書かないし,そこは原始関数の1つと書くべきではないのか(百歩譲っても,不定積分の1つというべき箇所ではないのか)と考えてしまい,思考が止まる.
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