高校〜大学基礎の数学用語.公式.例

1.三角関数の重要な極限値
 三角関数の微分(導関数)を求めるとき,次の極限値が重要な働きをします.(の角度の単位はラジアン)
…(1)
この極限が重要である理由1
 の微分(導関数)を求めるには,次の極限値が必要になります.
…(*1)
(*1)を求めるためには,三角関数の和を積に直す公式を使って,を変形しておきます.
(和を積に直す公式)

としてこの公式を適用すると

(*1)は


のとき,だから,あと

すなわち,とおくと

の極限値が必要になります.
この極限が重要である理由2
 の微分(導関数)を求めるには,次の極限値が必要になります.
…(*2)
(*2)を求めるためには,三角関数の和を積に直す公式を使って,を変形しておきます.
(和を積に直す公式)

としてこの公式を適用すると

(*2)は


のとき,だから,あと

すなわち,とおくと

の極限値が必要になります.
理由3
の微分(導関数)は,商の微分法を用いて,の微分との微分から求められるので,結局,の極限が必要になります.

2.の証明
この証明は,高校数学Vで習い,次のように扇形と直角三角形の面積の比較から示すのが普通です.
ア)のとき
のとき,右図において,2つの三角形と扇形の面積を比べると
扇形


であるから


のときであるから
…(1)
イ)のとき
とおくとだから

…(2)
(1)(2)から
…証明終わり■
基本問題
 次の極限を調べてください.(高校数学Vの範囲)
【問題1.1】
(解答)

のとき,だから
(原式)=1 …(答)
【問題1.2】

から,一般に
が成り立ちます.
の変形が難しくても,分母に同じものを置くと,極限が求められます.
(解答)
…(答)
【問題1.3】
(解答)
…(答)
【問題1.4】
(解答)
…(答)

 以下は,ロピタルの定理を使うと簡単になる問題です.

も使います.
【ロピタルの定理】
の近傍で微分可能で,のとき
が存在すれば
 次の極限を調べてください.(本来は大学数学の範囲だが,大学入試でも高校生用に使うことがある)
【問題2.1】
 高校の教科書にロピタルの定理は書いてないので,高校生が答案を書くときは,最初に「ロピタルの定理により」と一言書くこと!
 大学生は,書かなくてもよい.
(解答)

…(答)
(別解) ロピタルの定理を使わない答案


…(答)
【問題2.2】
(解答)

…(答)
【問題2.3】
(解答)

【問題2.2】の結果とから
…(答)
にロピタルの定理を3回適用してもできるが,計算は長くなる

2変数関数の極限
 2変数関数のとき,変数へどんな近づき方をしてもが一定に値に近づくとき,極限値が定義される.
 2点間の距離をとすれば,に近づくとは,が0に近づくことと定義すればよい.
 極座標を利用するのが簡単であり,ほとんどの問題は極座標のを用いて,とすれば求められる.
 次の極限を調べてください.(大学数学の範囲)
【問題3.1】
(解答)
とおくと

…(答)
のとき)
【問題3.2】
(解答)
とおくと


偏角θによって異なる値に近付くから,極限なし…(答)

三角関数の微分
【基本公式】
…(1)
…(2)
…(3)
(証明)
(1)←


のとき,

したがって

結局

(2)←


のとき,

したがって

結局

(3)←

だから,商の微分法により



基本問題
 次の関数の微分を求めてください.(高校数学Vの範囲)
【問題4.1】
≪合成関数の微分法≫



(解答)


とおくと

…(答)
【問題4.2】
≪合成関数の微分法≫



(解答)


とおくと

…(答)
の係数のうちで,微分したとき外に出てくるのはだけ(は外には出ない)

【問題4.3】
≪積の微分法≫
のとき

こぶ(')は1つずつ付ける.2つ同時には付けない.
この公式は,次の形で覚えてもよい.
のとき

この形では3個以上のときでも加えるだけ
のとき

(解答)



とおくと



とおくと



(最終形はを使うと,様々な形になります)
【問題4.4】
≪商の微分法≫
のとき

分子は,やられてから('),やり返す.
この公式は,次の形で覚えてもよい.
のとき

この形では3個以上のときでも,分子は加え,分母は引くだけ
のとき

のとき

のとき

※以上の証明は,対数微分法を使うと楽に示せる
(解答)


…(答)

深読み…閑談・雑談
♪〜忙しい人は読まなくてもよい
[1]循環論法の疑い
 三角関数の微分に関連して,下記の例(A)(B)(C)などが「循環論法ではないか」と言われることがあります.
(A)円の面積の証明にを使うのだから,円の面積がとなることを使って,となることを証明するのは循環論法だという議論
(B)を利用して,

を示し,これによってを証明するのであるから,その経過を考えれば,
を使ってを証明したら循環論法になるという議論
(C)
を使って,を証明するのであるから,

を証明するために,微分を使って

とするのは循環論法だという議論

[2]循環論法になるという主張の概略
(A)右図において,2つの三角形と扇形の面積の比較から
扇形

…(1)





…(2)
の順に証明しているのであるが,
(1)の扇形の面積がになるということを求めるために,(2)のを使わなければならないから,証明すべき結果を使って行われており,循環論法になっているというのがクレームの内容である.
 確かに,小中学校では円の面積はと教えるが,それは頭ごなしに覚えなさいと述べているだけで,正確には積分を用いて得られた結果を先取りして教えているだけであるという主張にもなっている.
 まず円は上下左右対称だから、第1象限の4分円になる面積を求めて,結果を4倍すれば求められる.

 により置換積分を行うと

により



 この変形の後ろから3個目の式では,を裏返したものとなる.
 次に,中心角の扇形の面積は,円の面積から円の1周の角度と中心角との比によって求められ,よりとなって,(1)式の第2項が得られるというものである.
 この説に対しては,次に示す極座標によれば,を使わなくても,円の面積を求められるのであるから,(A)が循環論法という指摘は当たらないと考えられる.
 半径がの円の円周の長さはだから

 この他,小中学校では,無限と言う用語を使わずに,次の図のような「ミカンの袋むき」「タマネギの皮むき」で説明する場合もある.このようにして,三角関数の微分を使わなくても円の面積を求める方法はあるから,循環論法とは言えない.

(B)高校数学Vでは,微分法の不等式への応用という項目があって,

のとき
が成り立つとき,平均値の定理を使って,
のとき
が言えます.
 教科書などで,この項目において
のときを証明しなさい.
という練習問題が出題されたときの答案と採点をどうするか.
 習った証明方法をそのまま使うと,次のような答案になる.
とおくと


ゆえに,
 上記の答案を循環論法だとする説は,受験雑誌などでよく見られ,概ね次の主張になる.
…(1)

…(2)

…(3)
の流れで,を証明したのだから,(3)を使って(1)を証明するのは循環論法だというクレーム.
(C)  次の答案も循環論法の疑いをかけられる可能性がある.

を証明せよという問題に対して,
 ロピタルの定理により

参考:【ロピタルの定理】
の近傍で微分可能で,のとき
が存在すれば
…(2)

…(3)
の流れで,(2)を使って(3)を証明したのだから,(3)を使って(2)を証明するのは循環論法だというクレーム.

[3]循環論法になるという主張に対する筆者の考え
 議論の前提となっている証明方法がそれしかない場合には,上記の議論(A)(B)(C)はいずれも聴くべきものがあります.特に,今日の生徒・学生の数学に対する考え方が,点思考,一問一答方式,答が合えばよいという傾向が強くなっている中で,論理的な関係を見直して,循環論法の可能性を検討することは,それ自体重要な作業だと考えられます.
 しかし,高校以下の数学教育で生徒に見せていることが数学の全部ではないので,「数学という学問としてはどうなのか」という問題と「定期テストまでを視野に入れた1人の高校教師の指導の範囲内での正誤の取り扱いとしてはどうなのか」という問題は同じではない.
 数学としては,筆者が半世紀前に読んだ書物の次の趣旨の記述が正解だと思う.(記憶はあいまいで正確ではない…半世紀も前のことで,その本が手元に残っていない…青い表紙で吉田...とか書いてあったような)
 極限とか微積を取り扱う解析学では,図形の性質を取り扱う幾何学の助けを借りなくても,解析学として三角関数を定義し,証明することができる.三角比を直角三角形の辺の長さの比で定義したり,三角関数を単位円上の点の座標で定義したりするのは,高校生向けに噛み下して分かり易い形で述べただけで,それが全部ではない.

もしくは

によって,三角関数を定義すれば

は,(A)(B)(C)のいずれとも関係なく証明できる.
 もっと直接的に言えば


で定義される関数(これはマクローリン級数に似ているがなどの「微分の結果を使って」展開したものではなくて,この式の右辺を新たに左辺の関数の定義としたもの)を使えば


は直ちに示される.
 要約すると,高校生向けに図形を使って三角関数を定義するのは,複素数や無限級数がまだ身に着いていないからで,解析としては極限とか無限級数を基礎として関数を定義できる.だから,解析学では図を使わなくても三角関数の微分積分を定義することができる.結局,上記の(A)(B)(C)が循環論法に見えるのは,高校数学の範囲だけを見ているからである.
 これに対して,定期テストまでを視野に入れた1人の高校教師の指導の範囲内では,

を使って,を証明している(他にはない)のであるから,を使って

を証明したら,それこそ循環論法だと戒めなければならない.
 大学入試のレベルになると,微妙になる.日本国内の高校3年生向けなら,例外なく上記の範囲内にいると考えられる(上記の流れ以外で書かれた教科書はないから)が,社会人入試とか帰国子女向けの場合,三角関数を解析的に定義している者がいてもおかしくない.
 次の答案は,ロピタルの定理を使って,極限を求めたものであるが,この答案を循環論法だから不正解とは言えない.

 最後の変形を,次のように書いていれば「?」な感じはするが,大学の教科書では模範解答として示されている.


■循環論法疑惑のまとめ■
• 直接書かれた公文書があるわけではないが,通常,数学の教師が答案を採点するときは,次のように判断すると思う.
(1) 答案を作成ときに,教科書に書かれている定理や公式は,黙って使ってよい.
(2) 教科書に出てこないような定理や公式(高校の立場から見た場合のロピタルの定理やテーラーの定理など)は,その定理の名前を書くか,その公式を簡単にでも説明してから利用するのはよい.
 (1)に関連して,黙って使ってよいとは言っても,ある定理を証明せよという問題でその定理自体を使ってはならないのは当然です.
 例えば,
を証明せよ.」という問題に対して
「これは正しい.なぜなら教科書に書いてあったから.」という答案は零点です.(実際にそういう答案があるので笑い話にならない.)
• この教材の作者は万能ではないので,教科書や参考書で,上記の循環論法の問題がどのように取り扱われているかを調べてみると
(B)に関連して,

のとき
が成り立つとき,平均値の定理を使って,
のとき
の解説をして,初めの練習問題に
のときを証明しなさい.
という問題が出題されている場合は,ひねった問題ではなく,素直に公式を適用する練習として出題されていると考えられるから,f(0)=0とf'(x)>0で証明することを想定していると考えられる.すなわち,(B)を循環論法とは見なしていない.
 このような教科書が4社5冊中の1冊にある.(図で示すのなら,その場所に問として書かれていることの意味がなくなる.なお教科書には,解は付いていない.)
 また,参考書に解答として,f(0)=0とf'(x)>0で証明してあるのが,2社4冊ある.
 以上のように,筆者と同様に,(B)を循環論法とは見なしていない.
(C)は,高校の答案としては「横着過ぎる」感じはあるが,(教科書に書いてある重要定理の証明をそのまま出しているのだから,丸暗記問題になっており,解き方を指定するなど出題の意図を明確にする必要がある)大学の答案としては,何ら問題はない.
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